コラム

コンサルタント・桑戸的な視点 第5回 

桑戸真二(株式会社フレーベル館保育経営アドバイザー)、安岡知子(特定社会保険労務士)

■ 第17回 処遇改善等加算Ⅰ・Ⅱ ■

前回、処遇改善等加算Ⅱをテーマに、実際に園でどう取り扱ったらよいか、園の人財コンサルタントをされている特定社会保険労務士の安岡知子先生にお話を伺いました。大変ご好評をいただきまして、読者様から「続編をお願いできないですか」と嬉しいご連絡をいただくほどでしたので、皆様のご期待にお応えしたいと思います。今回も安岡先生にお話を伺いました。

桑戸:

内閣府のHPに「技能・経験に応じた保育士等の処遇改善(処遇改善等加算Ⅱ)に係る別紙様式等について」がアップされた後、処遇改善等加算について園長先生とお話をする機会が増えました。「賃金改善計画書」を策定する段階に入ったのだと思います。「不公平感が出ないように正規職員に平等に支給したい、処遇改善等加算ⅡにⅠを組み合わせて考えている」という園長先生が多くいらっしゃるように感じます。

安岡:

そうですね。処遇改善等加算の制度をよくご理解されて検討されている園長先生だと思います。処遇改善等加算Ⅱは、職員に支給する際の制約に注意が必要です。この制約があるがゆえに、処遇改善等加算Ⅱだけでは難しく、処遇改善等加算ⅠとⅡを原資とすることで、園が持ち出しをせずに園長先生のお考えを実現できます。

桑戸:

処遇改善等加算Ⅱを職員に支給する場合、4万円から5千円と支給額に幅があるために、園長先生は、園の職員を一人ひとり思い浮かべながら、職員間に生じる不公平感を小さくしようと支給額をどうしようか悩んでいらっしゃるようです。さすがに職員一律4万円を支給とするわけにもいかないですからね。

安岡:

職員にいくらずつ支給するか、金額を計算する前に、処遇改善等加算の目的に立ち返り、今一度考えていただきたいと思います。私も園に勤務していた経験がありますので、風土とも言える、園ならではの「平等」の意識は理解できます。しかし、園の経営方針、職員の育成方針、組織体制、職員の状況、職員の分布、職員同士の関係性、今後の予想園児数等に鑑みて、園長先生のお考えを実現するように、職位、職責、職務内容と支給額の枠組みを構築していくべきだと私は考えます。

桑戸:

安岡先生のおっしゃることはわかりますが、ではどうすればよいのでしょうか? 例えばどのような枠組みが考えられるか、具体的な園の事例を挙げて教えてもらえませんか。

安岡:

はい。園の雰囲気も職員同士の関係性もよく、その中で職員は経験年数に応じて、保育者として成長している、そんな園の事例をご紹介します。園長先生は、常々職種ごとに専門性を広げ、深めてもらい、園内で保護者対応や後輩指導にあたる職員になってほしいと考えておられたので、処遇改善等加算Ⅰ・Ⅱの制度を活用するのはとてもよい機会でもあります。専門リーダー、専門サブリーダー、職務分野別リーダーの3段階のリーダーを置き、それぞれの職務内容を明確にし、職員の経験年数と成長度合いに応じていずれかのリーダーを命じるという枠組みを作りました。

ここでポイントになるのはそれぞれのリーダーの職務内容で、園長先生のお考えを実現する上で重要です。①職種ごとの専門性を広げ、深めるためにキャリアアップ研修の受講や自己研鑽を行うこと、②専門性をもって保護者対応にあたること、③専門性をもってOFFJTやOJTにより後輩指導をすることを、リーダーの段階に合わせ①②③を組み合わせた職務内容として定めました。そして正規職員とそれに準ずる職員には、経験年数と成長度合いに応じていずれかのリーダーを命じます。

桑戸:

つまり、〇〇リーダーの辞令を受けた職員は、キャリアアップ研修を受講すること、自己研鑽を行うことも業務になるわけで、機会「平等」となりますね。そして段階的に定めた職務内容に見合った手当を支給することで手当額においても不公平感がなくなる、ということですね。

安岡:

その通りです。園長先生のお考えが国の考える処遇改善等加算という制度の目的に合致しています。〇〇リーダーの職務内容は、職員がすべきことです。そして、職員を評価するためというより、育成のための指針というほうがしっくりくるのではないでしょうか。

今年度は、キャリアアップの研修の履修を課せられていませんが、来年度以降、職員の受講状況等を踏まえて決定します。その時に、キャリアアップの研修の履修は業務ですよ、履修の機会は平等に与えるので受けてくださいね、と職務内容を根拠に指導できるわけです。

繰り返しになりますが、国が処遇改善等加算を実施する目的は、「職員の資質向上を図り、質の高い教育・保育を安定的に供給するため…」です。そして、教育・保育の質を支え、担保しているのは職員です。園長先生が目指す組織づくりに向けて、より職員の資質を向上させるためのものと捉え、ぜひ活用していただきたいと思います。

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桑戸真二・プロフィール:一般財団法人総合福祉研究会理事、NPO法人福祉総合評価機構専務理事、(株)福祉総研代表取締役。(株)フレーベル館保育経営アドバイザー。幼稚園・保育園から認定こども園への移行に関するコンサルティングなどを多数手がける。関係省庁・団体とのつながりも深い。

安岡知子・プロフィール:社会保険労務士法人 人財総研役員、㈱福祉総研KYOSTA事業部長。園の勤務経験をもとに、それぞれの法人の現状を踏まえた「現実的なアドバイス」「実施可能なご提案」など「人」に関わる分野で園経営をサポート。2017年度保育ナビに「それぞれの園のための就業規則を考える」連載中。

保育ナビ倶楽部 会員限定メールマガジン 2017年8月15日号から)

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