コラム

漢字を楽しく 第4回

 

執筆/首藤久義
プロフィール:千葉大学名誉教授。『はじめてつかう漢字字典』の編著者。

 

①これらの意味は?

次の3つの古代文字は、どれも、同じ意味を表しています。
どういう意味を表しているでしょう?

 

 

答えは、「心臓」です。
これらの古代文字はどれも、心臓をかたどったものです。
現代の人が心臓を直接見る機会は、なかなかありませんね。
しかし、生き物を解体する機会が身近にあった古代の生活の中では、心臓を直接見る機会が今より多くあったと考えられます。そのため、心臓の形や仕組みについて知る機会も多かったと考えられます。
心臓が感情の変化に応じて変化することを実感していた古代の人が、心臓に心のはたらきがあると考えるのは自然なことだと思われます。
その結果、これらの古代文字が、「心臓」だけでなく、「心」という意味も表すようになったと考えられます。
つまり、これら3つの古代文字はどれも、「心臓」あるいは「心」を表す文字だと考えられます。

②今の漢字「心」に近い古代文字はどれ?

これら3つの古代文字のうち、今の漢字「心」の形に最も近いものはどれでしょう?
比べてみてください。
次のイラストがヒントです。

 

 

色を付けてみました。
こうすればわかりやすくなりますね。
答えは、一番右の古代文字です。
これが、今の漢字「心」の形に一番似ていますね。

③ハートマークによく似た古代文字

前に示した3つの古代文字を、もう一度見てください。 ハートのマークに一番近いものは、どれでしょう?

 

そうです。一番左の古代文字が、ハートのマークにそっくりな形をしていますね。
英語の単語「ハート(heart)」の主な意味は、心あるいは心臓です。
ハートマークが、心や心臓の意味で使われることは、今でもあります。
ハートマークそっくりな古代文字があったなんて、考えるだけでも楽しくなりますね。

 

①愛の真ん中に心がある

 

 

この漢字は、「愛(あい)する」や「愛情(あいじょう)」の「愛」です。
この中に「心」という字があります。
見つかりますか?

 

 

見つかりましたね。「愛」という漢字の真ん中に「心」があります。
「愛の真ん中に心がある。」なんて、ステキですね。
私がこのことに気付いたのは55歳の時でした。そして、うれしくなりました。

②「愛」は、どう書く?

あなたは、漢字の「愛」を書く時、どこから書き始めますか?
一番上にある片仮名の「ノ」のような形から書き始めるのが、標準的な筆順とされています。
「ノ・ツ・ワ・心・なつあし」と言いながら書くと、覚えやすいですよ。
でも、この「なつあし」って、何のことでしょう?
それについては、次に説明します。

③なつあし

「なつ(夏)のあし(脚)」の部分にある形を見てください。

 

 

「愛」という漢字のあし(脚)の部分にも同じ形がありますね。これが「なつあし」です。

④ふゆがしら

「冬」という漢字を見てください。何か気が付きませんか?

 

 

そうです。ここにも、「なつあし」に似た形がありますね。
こちらは、「冬」という漢字の上の部分(頭:かしらの部分)にありますので、「ふゆがしら(冬頭))と呼ばれています。

 

①「必」の中の「心」見つけ

 

 

この漢字は、「必ず(かならず)」や「必要(ひつよう)」の「必」です。
この中に「心」があります。どこにありますか?

 

 

ありますね。大きな「心」がありますね。

②「必」をどう書く?

「必」の書き方にはいろいろあります。
その1つが、

 

 

というように、まず「心」を書いて、最後に「ノ」を貫(つらぬ)き通して終わるという書き方です。
こう書くと、「心」に「たすき」をかけるように見えます。
「心にたすきをかけて気を引きしめ、必ず・・・しよう。」というような言い方をする人もいます。
この言い方は、「必」の形を、意味や書き方と合わせて印象的に覚えるために役立ちます。
でも、残念なことに、これは標準的な筆順ではありません。
標準的な筆順では、どういう順番になるでしょう?
文部省(今の文部科学省)が出した『筆順指導の手びき』(末尾補注参照)では、次のような筆順が標準とされています。(同書p.23)

 

 

今では、この筆順が標準として広く採用されています。
この筆順を私は、「ソを書いて、右はらいをはねて、点々」と覚えています。
最初に書く2画が片仮名の「ソ」に似ているからです。
標準的な筆順以外にも、「必」にはいろいろな筆順があります。「心にたすき」という筆順もその1つです。それらの筆順は、標準的な筆順ではありませんが、誤りと決めつけることはできません。そのことは、『筆順指導の手びき』で、「ここに取りあげなかった筆順についても、それを誤りとするものでもなく、また否定しようとするものでもない。」(同書p.7)と述べられていることからも明らかです。

 

漢字の「思」にも「息」の中にも、「心」が含まれています。
「思」と「息」の違いは、「田」と「自」だけです。
その違いについて考えてみましょう。

①「思」の「田」はどんな意味?

「思」という漢字を分解すると、

田 + 心

になります。
この「田」は「田んぼ」の「田」と同じ形をしていますが、古代文字では次のような形をしています。

 

 

この古代文字の上半分の形を見て、「田んぼ」を思い浮かべる人はいますか?
私には、どう見ても、「田んぼ」には見えません。
あなたは何に見えますか?
私には、人間の「頭脳(ずのう)」を表しているよう見えます。
そう見るのは私だけでなく、多くの解説書が同様の見方をしています。
そのように見ると、なるほど、人が思う時、頭(頭脳)と心が動くなあと納得がいきます。そして、漢字の「思」の形と意味が覚えやすくなるように思います。

 

②息は、鼻から胸に吸う

「息」という漢字の上半分は「自」ですね。
「自」の古代文字は、

 

 

です。この古代文字がもともと表していた意味は「鼻」でした。
「息」という漢字の下半分には「心」がありますね。
「心」という漢字はもともと、心臓の形を表していましたが、心臓だけでなく、心臓があるあたりの胸も表すようになりました。
鼻と胸を表す形を合わせて、「息」という漢字ができていると考えると、この漢字の形と意味が覚えやすくなります。
人が息をする時、確かに、鼻と胸の間を空気が往復しまからね。

 

次の14個の漢字を見てください。そして、その中にある「心」という形を見つけてください。

 

心 応 志 忘 念 忠 急 恩 悪 悲 感 想 態 憲

 

見つかりましたか?
14個全部に、「心」がありますね。
漢字字典や漢和辞典の中でこれらの漢字は「心の部」に分類されています。
なお、これら14個の漢字だけでなく、先に取り上げた、「愛」「必」「思」「息」は言うまでもなく、それ以外にも、「心の部」に分類されている漢字があります。
そして、「心の部」の先頭(部首)には、「心」という漢字が置かれています。
「部首」とは、もともと、「部の先頭」という意味ですから、「心の部」の先頭にある形、つまり部首は「心」ということになります。
だから、例えば「忘」や「悲」や「感」や「想」などの漢字の部首は「心」ということになります。
それら漢字を「部首索引」で探す場合は、「心」の部で探すことになります。
なお、「心」を含むすべての部首は、その部に属する漢字の構成要素となっています。

 

「窓」という漢字の中にも「心」が含まれています。

 

「心」は「窓」という漢字の構成要素(「部品」)の1つです。が、部首ではありません。
では、「窓」の部首は何でしょう?
答えは「穴」です。
なぜでしょう?
窓は壁に開けられた穴のようなものですから、「窓」という漢字は穴と縁が深い漢字だということになります。「窓」という漢字が「穴の部」に分類されているのはそのためだと考えられます。
そのため、「窓」という漢字を「部首索引(ぶしゅさくいん)」で引く時には、「穴の部」で引くことになります。

ええ! そうなの! その判断、難しいなあ。
と心配する人もいるでしょう。
でも、心配しないでください。

 

現在では多くの部首索引が、「心の部」でも「窓」を引くことができるように作られています。
それだけでなく、「うかんむり」からでも「窓」を引くことができるように作られた部首索引もあります。親切ですね。
私首藤編著による『はじめてつかう漢字字典』(フレーベル館)の部首索引もそうなっています。

【補注】わが国で初めて公的に標準的な筆順を示したのは、文部省(今の文部科学省)著作権所有の本『筆順指導の手びき』(博文社出版、1958年)です。この本が出て以来、そこに採用された標準的な筆順が広く受け入れられて、今に至っています。この本は、次のサイトで読むことができます。

https://qr.paps.jp/ojF1r

<次回も漢字が楽しくなるコラムをお届けします! お楽しみに>

 

今回は、首藤先生のお話に出てきた「部首索引」の特長をご紹介します!

 

『はじめてつかう漢字字典』の部首さくいんはとても使いやすく作られています。

漢字の部首がわからなくて、「調べられない、困った!」ってこと、ありますよね。この部首さくいんでは、いろいろな部首や部首ではない部品からも漢字の載っているページを探すことができるんです。

例えば、漢字の「思」は、4画の「心(こころ)」からでも、5画の「田(た・たへん)」からでも探すことができます。

 

 

4画の「心(こころ)」のところから「思」を探せましたか? 76ページに載っていることがわかりますね。
次に、5画のところも見てみましょう。

 

 

5画の「田(た・たへん)」のところから「思」を探せましたか? ここからも76ページに載っていることがわかりましたね。でも、「田(た・たへん)」は「思」の部首ではないので、グレーで示されていますよ。

こんなふうに漢字が探しやすくて便利ですね。ぜひ、使ってみてくださいね。

 

 

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監修/村石昭三(国立国語研究所 名誉所員)
編著/首藤久義(千葉大学 名誉教授)

古代文字/浅葉克己 イラスト/坂崎千春+井上雪子
ブックデザイン/祖父江慎

規格 : 22×15cm 412ページ
ISBN : 9784577814468

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