コラム

第4回「根っこはつながっている」

撮影:渡辺 悟

執筆/一般社団法人heARTfulness for living協会 
   代表理事  戸塚真理奈

もち合うものに目を向けよう

初回の研修が1月に終了したのち、和光保育園副園長の鈴木秀弘先生に日頃の様子をご報告していただきました。先生方の内側では、習った「マインドフルネス」を意識的に生活に取り入れたい、でもどこからどうスタートしていいやら、そもそも忙しすぎて時間の隙間がない、でもストレスは相変わらず、ここはやはり副園長の鈴木秀弘先生に音頭を取ってもらいたい……など様々な心模様が見られたようです。鈴木先生からは、忙しさの中で仕事を進めるために人間関係が後回しになってしまうことが時としてある中、職員の真の結びつき合いをつくるニーズについてもうかがいました。

第2回研修当日は、初回後に自主的なワークとして試してみたことや気づき、感想をまるで食堂のテーブルに並べるように、先生方に次々と発表してもらいました。できていないことやそのジレンマを話す時は職業柄、先生方はつい罪悪感をもちがちです。笑顔とともにお話ししていただけるよう、明るい場をつくるように努めました。

その後、忙しい先生方にマインドフルネスを無理なく取り入れてもらうために、おやつとお茶をマインドフルにいただく実践ワークをご紹介しました。たった2粒のチョコレートに向き合い、香りや、ゆっくりと口の中で溶けていく様子、歯や舌の働き、1杯のお茶の温もりやそれが胃の中に含まれていく様子を観察する時間です。普段は1枚の板チョコをパクッと食べてしまうのに今回は1粒でお腹いっぱい、そんな体験から、無意識に食べ物を口に入れている自身への気づきもあったようです。そして、鈴木先生がみんなのために淹れてくださったお茶を飲みながら、「ひでさんの顔が思い浮かんだ。お茶碗を手で包みながら温かさを感じ、ただ、感謝だなあと思った」と感想を述べた先生がいたのが印象的でした。きちんとスローダウンできるなら、互いの存在の貴重さ・ありがたさ・特別さに気が付けることが現われたひとときとなりました。

実は、1月から9月にかけて全4回実施された研修において、横串として置いていたテーマが「集団の力を伸ばし、うねりを生む」という点でした。表層的にはそれぞれの木が枝を広げているようだけれど、地面の下では根が結ばれ合っています。同じ土を共有しています。そこにみんなでしっかりと気付き、集団という束の力を高める。そのためにはそれぞれの枝葉の代わりに根っこに意識の目を向けることが肝要となります。鈴木先生の1杯のお茶からほかの先生がきちんとメッセージを受け取ったように、結局のところ、講師を務めさせていただいた私という存在は何かを伝える・教える役目ではなく、ちょっとした種まきをしているだけなのです(そしてその立ち位置をとても気に入っています)。和光保育園の先生方こそが主人公ですので、いかにそこに彼ら自身に気付いていただくかを大切にしたいと意図してまいりました。

1月の初回では「わたし」という個人に目を向けましたが、第2回以降はその束の力の熱量を上げることに意識をおき、今回のメインテーマは「対人関係」としました。

ともすると気持ちがささくれ立ってしまうような猛烈な忙しさの中では、知らないうちにするすると口に入っていく1枚のチョコレート同様、コミュニケーションも無意識に注意深さや丁寧さを欠いてしまいがちです。

地面の下の結ばれた根っこではなく、それぞれの木々ばかりに目がいってしまい、違いや対立にエネルギーが向いてしまうことも。大切なのは、根っこ(根本・本質)のところでどんな世界をつくりたいのかであり、そこから目を離さないようにすれば自ずとどんなやり取りを、どんな言葉で、どのタイミングで行うと良さそうか答えが見えてくるはずです。

木をよく見れば

優しさが届けてくれる、居心地のよさ

ということで、今回の研修では、自分たちが行っているコミュニケーションが助けになるのか、またそこには優しさがあるのかに軸を置き、第1ステップとして、自分の内で過去のエピソードを思い出しながら(今から考えれば別の言い方、進め方があったかどうか)リフレクションする時間。そして、第2ステップとして、ペアをつくり相手に自分の失敗やつらかった話をシェアし、相手はただうなずいてあげる、そして心からの思いやりのこもった言葉をかける実践をしました。

失敗がだれにだってあることを知り、年齢やキャリアに関係なくそんなエピソードを語り合う時間をもったことで、若い世代はホッとでき、先輩先生たちには鎧を脱ぐことの心地よさや、失敗談やつらさのシェアが相手のためにもなりうることを感じてもらえたようです。

この経験は、大きな意味があると感じています。それは、「弱さをさらけ出すことは強さである」ということを、心の温度で感じるということです。そこにきちんとアクセスできるなら、優しさを相手だけでなく自分にもあげて、そういうあり方を通じて相手を緩ませてあげられる、という循環が生まれていきます。

研修は保育園のスケジュールの関係で夕方から夜間にかけて行われたのですが、あの晩のあの場で、ほかほかと温かいエネルギーが巡っていることに気付いたのは私だけではなかったと信じています。

研修翌日、早速園では自主的にリマインダーが貼られた(米国Susan Kaiser Greenland先生の手法を
研修にてご紹介した)

前回の鈴木先生のコラムでご紹介のあった、朝リュックを忘れてきてしまった親子さんとそれを目にした先生方とのやり取りは、実はこの研修の翌朝に起きたと記憶しています。みんなが優しさを持ち寄る、そんな場の居心地の良さが芽吹いたのではないでしょうか。そして、その芽吹きに気付き、集団の歩みとして記してくださる観察者の方(つまり鈴木先生)が輪の中にいます。すべては不思議な巡りのもとで、絶妙なタイミングで起きているということなのでしょう。

※次回は、戸塚先生のコラムを受けて、鈴木先生が執筆します。どうぞお楽しみに!

第5回コラムはこちら↓
第5回「旅そのものを楽しむ」

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