コラム

コンサルタント・桑戸的な視点 第9回

桑戸真二(株式会社フレーベル館保育経営アドバイザー)、柳修二(株式会社福祉総研執行役員)

■ 第21回 「子育て安心プラン」等を踏まえた今後の戦略 ■

教育無償化を柱とした「人づくり革命」の政策パッケージの制度設計が大詰めを迎えつつあります。日々、新聞記事やネット記事等を追っているのですが、情報は更新され続けています。読者の皆様がこのメールマガジンをお読みになる頃には、文中に古い情報があるかと想像しますが、ご了承いただければと思います。今号では、国の動きを踏まえて、今後の保育業界の動向を予測しながら、園経営への影響を考えていきたいと思います。先月号に続き、柳氏にお話を伺いました。

桑戸: 国の動きがとても早く、先月号から教育・保育の施策・方針が変動してきています。この変化の時期にこそ予測ということが大切になってきます。「子育て安心プラン」の中で柳氏が注目するポイントは、企業主導型保育事業の拡充や幼稚園の2歳児の受け入れ、幼児教育の無償化や0歳児の保育等の在り方でした。これらを踏まえ、今後、保育業界の動向をどのように予測していますか?

柳:こんにちは、柳修二と申します。先月号から引き続きとなりますが、どうぞよろしくお願いします。

まず企業主導型保育事業の拡充と幼児教育の無償化についてです。

安倍内閣と経団連との協議により、子ども・子育て拠出金の負担率を現在の0.23%から0.45%程度に引き上げ、3,000億円を捻出し、2020年度末までに32万人分の保育の受け皿を確保するための財源に充てると言われています。この話と同時に、保育料については、3~5歳児の幼児教育無償化と0~2歳児は住民税非課税世帯を対象に無償化が段階的に実施されていくようです。保育料の無償化は企業主導型保育事業を含む無認可の施設・事業も対象とされるとありますが、保護者からの視点においては保育料が園を選ぶ選択肢の一つとなるでしょう。

桑戸:保育の無償化の対象を巡っては議論が続いていますので、引き続き注目していきたいと思います。次に0歳児等の保育の在り方について、お考えを伺えますか。

柳:内閣府及び財務省の資料では保育に必要な月額費用の平成26年度と平成29年度の状況が示されています。平成29年度の保育コストに占める一人あたりの利用者負担額と公費負担額(施設整備額等を含まない)を合算すると、0歳児20.6万円、1・2歳児12.8万円、3歳児7.0万円、4・5歳児5.4万円です。そのうち利用者負担額は0・1・2歳児3.6万円、3歳児3.0万円、4・5歳児2.7万円でした。これを示しつつも0~2歳児が同額の保育料を保護者に負担してもらっていることを見直し、0・1・2歳児のそれぞれに応じた保育料の適正化が検討されています。これは国や自治体の財源がなくなってきていることが見え隠れしているとも言えますので、将来的には再調整・配分がされていくことでしょう。

また、待機児童が1・2歳児に多いこと、幼稚園の2歳児受入れなどを考えると、行政区によっては0歳児の定員を減らして1歳児に転用することも考えられますね。職員確保も緩和され、行政の保育コストも減ることもありえますし、ある地域ではその動きも若干見受けられます。また、0歳児で負担する行政のコスト17.0万円を支払うよりも、保育所等の待機をしている保護者に対して直接給付をするなども一つの方策につながるかもしれません。つまり、これまでの考え方もかなり変化していく可能性もあります。

桑戸:実際、待機児童が多い、都内の自治体が相次ぎ保育料を値上げするという、自治体レベルで保育料の適正化の動きもありますね。保護者・自治体などの視点からの話がありましたが、今後の園経営を考える上では何が重要でしょうか?

柳:重要と考えているのは、人や子どもの確保と経営の適正化についてです。

「0歳児の保育単価が高いので儲かる」ということを聞くことがありますが、収入が多くても職員配置は「1:3」なので人件費がかかり、必ずしもそうとは言えません。地域によっては職員が確保できなくて定員を充足できず、園全体が縮小化していくリスクもあります。職員の確保に苦労している施設・事業者にとっては行政との相談にもよりますが、前述の通り、0歳児の定員枠を1歳児に移すことも選択肢でしょう。また、園児確保という視点において、どの時期で確保するのか、また、0歳児・1歳児・2歳児など、どこのクラスで定員を充足させ、持ち上がっていくようにするのかなど、これらを見据えて定員設定の再検討を図ることも必要かもしれません。少子化は進んでいますので、都市部の人口が集中した地域を除き、突然子どもの人数が減るという現象がいつかやってきます。

桑戸:その他に、園経営に影響しそうな情報やお考えはありますか。

柳:「平成29年度 幼稚園・保育所・認定こども園等の経営実態調査集計結果について」によると、収支差率については私立保育所5.1%、私立幼稚園6.8%、私立認定こども園9.0%の平均7%でした。子と?も・子育て会議基準検討部会でこの収益率を踏まえ公定価格の見直しについて議論が始まったばかりですが、人件費は下げずに最適化を検討するでしょう。また、今後、事業を存続させるための最低限の費用にかからない部分として管理費(賃借料や減価償却費加算等)が減額されていくこともありえると個人的には考えています。

桑戸:これまで教育・保育の業界の動向を見てきて、さまざまな変革期がありましたが、少子化や日本経済の状況などに鑑み、教育・保育業界の最後の大きな変化がこの数年間であると予測しています。保育・教育の施設・事業が複数あることで、単純な答えがなく、それぞれの地域でどう考えて、どう事業の方向性を描くのか、経営側の戦略が極めて大切になっていると感じます。

注)2017年11月28日執筆。

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桑戸真二・プロフィール:NPO法人福祉総合評価機構専務理事、(株)福祉総研代表取締役。(株)フレーベル館保育経営アドバイザー。幼稚園・保育園から認定こども園への移行に関するコンサルティングなどを多数手がける。関係省庁・団体とのつながりも深い。

柳修二・プロフィール:株式会社福祉総研執行役員。東京都福祉サービス第三者評価者、保育士。

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