コラム

保育新時代を読む!     トピック&解説  第2回

監修/桑戸真二   解説/小出正治  

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■ 第2回 

同僚性を高め、職員一人ひとりの悩みや戸惑いに寄り添うことが、「人が育つ」園をつくる

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

◆ 職員確保が困難な時代に、若手を辞めさせず、育てていくことのできる組織をつくるには

人材育成、特に新人・若手の職員に対する教育は、どの園にとっても重要な課題となっています。「来た人はとにかく採る」ことを余儀なくされる状況のなかで、やっとの思いで確保できた人材だけに、辞められても困る、さりとて能力は求めるレベルに到底達しておらず、フォローする現場の負担感も無視できない――そういった悩ましい状況に苦慮する園経営者の方も少なくありません。

職員育成の仕方は園・事業者によってそれぞれですが、内部研修の体系や第三者評価でも求められる個人別の育成計画など、形としての仕組みが整っていれば人が育つかというと、必ずしもそうではありません。新入職者が一通りの教育プロセスを経て、現場で子どもや保護者と日常を共にするようになると、生身の人間相手ですので、研修等で得た知識だけでは対応できないケースも当然出てきます。というより、園の毎日はそんな場面のくり返しです。

◆ 経験から培われる柔軟さをもたない新人や若手には、こちらから手を差し延べる

例えば「子ども主体」の保育を実践するうえでは、大人の側にはどこまで子どもを「見守る」べきかという葛藤がつねにあり、その匙加減を見極め、最善最適の(と思われる)対応を場面ごとに行える感性や技術は、子どもたちとの無数の日々のかかわりのなかで、体験的に培われていくものではないかと思います。それは保育に限らず、どのような仕事であってもおそらく同じで、求める正解は1つかそうでないのか、そこに至るにはいくつの道筋があるのか、失敗はどこまで許容され、期限を過ぎてもどれだけ待ってよいか、といったことを、そのたびごとに判断していく感覚は、実務経験の蓄積のなかでこそ養われます。

しかしそれをもたない新人や若手には、「もしこうなったらこうすればいい」といった「先を見通す」「腹をくくる」考え方や、マニュアルを場面や対象に応じて読み替えるような柔軟な判断ができません。その結果、例えば一1人でふらふらとそぞろ歩きをしていたり、冬場であれば水洟(みずばな)を垂らしていたりする子どもに対して、「見守る」という園の方針の捉え方に迷い、どうすべきか、手を出していいんだろうか、と思い悩むうちに結局何もできなかった、ということも起きるわけです。

そういう小さなつまずきや後悔が日々積み重なるうち、真面目で純粋な職員ほど、保育がいつしか苦しいだけのものとなってしまう、と、ある園長先生からうかがったことがあります。また、自分たちの世代はそういう疑問を乗り越えるべき壁と思い、悩み苦しみながらでも自ら解決してきたが、今の若い子たちにはこちらから手を差し延べ、丁寧に教えてあげないと、自信をなくして辞めていってしまう、とも。

その先生は、理念だ目標だとくり返しくり返し現場に発信してきたが、それだけではいけないのだと気づいてから、とにかく職員一人ひとりと話し、保育をするうえで今何に困っているのか、どんな悩みや迷いがあるのかを聴き、アドバイスすることを心がけるようになった、とおっしゃっていました。

◆ 若手が先輩・上司や同僚と思いを共有し、保育や仕事に喜びと楽しさを感じられる組織の風土を

自身が毎日の仕事のなかで感じた様々な思いを吐露し、共感してもらったり、一歩前へと進むヒントを得たりできる機会は、経験の浅い職員にとっては何よりの助けとなります。都内の第三者評価では必須となっている職員個別記入の自己評価で、自園の長所・課題とも積極的に意見が寄せられ、組織としての活力を感じさせる園では、会議や事例検討などの場で、子どもや保育について職員同士で語り合う機会が日頃から活発に設けられていることも多いですし、若手や口下手の職員でも臆することなく思いを発信できるよう、「どんな意見であっても否定せず、まずは聴く」ことを話し合いのルールとしている園もあります。

職員が小さな疑問や悩みをいくつも抱え込み、孤独を感じたりすることなく、仲間と保育や子どもの話ができる環境があるか。園や法人の目指すものを、抽象的なお題目としてではなく、日々の現場の様々な場面での具体的なエピソードに寄せて、実感とともに理解できるような、機会や人間関係をどれだけもてているか。『保育ナビ』誌上でもよく挙げられる「同僚性」という言葉に置き換えてよいかと思いますが、そういう風土のもとで、一人ひとりが保育という仕事に喜びと楽しさを感じられる職場かどうかが、育成においても離職防止の観点でも重要であるように感じます。

+++++++++++++++++++++++++++++++++++

監修:桑戸真二・プロフィール:(株)福祉総研代表取締役。(株)フレーベル館保育経営アドバイザー。幼稚園・保育園から認定こども園への移行に関するコンサルティングなどを多数手がける。関係省庁・団体とのつながりも深い。

解説:小出正治・プロフィール:NPO福祉総合評価機構にて、保育・教育施設の第三者評価や事業者ネットワーク「保育所サポートデスク」の運営に従事。自治体の研修講師受託、書籍の共著・編集協力なども手がけている。

保育ナビ倶楽部 会員限定メールマガジン 2019年7月1日号から)

PAGE TOP