コラム

知っておきたい!園経営の視点 第6回

杉山芙沙子(パーム・インターナショナル・テニス・アカデミー校長)  桑戸真二(株式会社フレーベル館 保育経営アドバイザー)

■ 第6回 コーチング〈前編〉~待機児童問題・保育士不足の背景にあるもの ■

今回と次回の『桑戸的な視点』では、コーチングの指導で保育現場に関わるパーム・インターナショナル・テニス・アカデミー校長の杉山芙沙子氏にご登場いただきます。杉山氏は、世界で活躍した元プロテニスプレーヤー杉山愛氏の母親でありコーチでもあった方です。なぜ、そんな方が保育の話をするの?と疑問に思う方も多いと思います。実は、杉山氏は園児への運動指導で関わった園で仕事に悩む保育者の姿を目の当たりにしたことから、自身のコーチングのスキルにより様々な園で支援を行いました。結果、コーチングを行った園では保育者のモチベーションが上がり、離職率が大幅に改善。その実績から、いま多くの園からコーチングのスキルを求められている方なのです。

(以下、全文、杉山氏のお話となります)

●園の数だけでは解決できないこと

最近の新聞記事の中に「待機児童問題」「保育士不足」などの文字を見ない日はありません。この「待機児童問題」の単純な解決策として、“需要と供給”のバランスをよくすればこの問題が解決するかと言えば、そうとは言い切れません。新しく数多く園をつくったとしても、そこに肝心な保育者がいなくては保育を供給することはできません。「待機児童問題」「保育士不足」は、この“需要と供給”を数字で解決しようとするところに無理が生じていることを証明しているのではないでしょうか。数字ではないのであれば、どうすればこの「待機児童問題」を解決することができるのでしょうか。言葉の精査を含めて、「幼稚園・保育園・認定こども園などの違い」「育児と保育の違い」などを根本的に考える必要があると思います。

1890年に日本人が初めて建てた保育園の記録があるそうですが、それ以来、社会の情勢の変化に伴い、色々な変革や言葉の精査も行われ、ここで新たに考える時期がきているように思われます。そのポイントは、社会情勢や大人の都合から語る「待機児童問題」ではなく、「子どもの発達段階を踏まえた育児」です。「育児」をそもそも、「子どもを育てる」と考えるか、もしくは「子どもが育つ」「子どもと育つ」と考えるかによっても、園に求められるミッションも大きく変わってくると思いますが、子育てという大きな括りで考えると、「子どもを育てる」ことを通して「子どもが育ち」、そこに関わる大人も子どもと共に育つという壮大なプロジェクトが明確になってきます。

つまり、「待機児童問題」を考える時、少子化の進行、社会的経済の不安感など沢山の問題はあるものの、就学前の乳幼児にとって、彼らの発達段階を見据えた根本的な子育てについてもう一度考えることが重要だと思います。生まれてから学校に入るまで、親や兄弟姉妹だけで過ごすことは果たしていいのでしょうか。子どもによって個人差は大きいのですが、適切な時期に友達や知人という社会的集団の中で、子どもたちがどう関わっていくかは重要な問題です。個人の子育ては家庭で、社会・集団と関わる子育ては園で行われ、その一方ではなく、両方が子どもにとって不可欠であることを知ると、親が仕事をしている、していないに関わらず、園の需要は伸びていき、ぶれない理念を持った園は、社会から選ばれるようになっていくのだと思います。

●職場での人間関係が離職理由に

しかし、このことが分かり職員をきっちり確保しようとしても、実際、保育現場では「保育士不足」の問題は解決されていません。毎年多くの保育者が誕生しても供給が追いつきません。平成25年の調査結果によると、指定保育士養成施設卒業者のうち約半数は保育施設への就職はしていない事実、早期離職の顕著な傾向が指摘されています。この早い離職の原因として、責任の重さや事故への不安、就業時間、低賃金、休暇が少ない、などが挙げられていますが、離職後またほかの園へ移ることが多いのもこの業界の特徴でもあります。

ここで、私たちの調査研究を通して、職場での人間関係(対法人、対職員、対保護者、対子ども)に大きな悩みや課題があることが離職理由の1つとして見えてきました。そこで、保育知識の一方通行のセミナーとは違う、双方向のコミュニケーションをコーチングという手法で試みた結果を、次回はご報告したいと思います。これが「保育士不足」の問題解決につながり、子育て環境が少しでもよくなることにつながることを願ってやみません。

今回のメルマガはいかがだったでしょうか。また、次回もよりよい情報をお届けしますので、どうぞお楽しみに!

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杉山芙沙子・プロフィール:パーム・インターナショナル・テニス・アカデミー校長、JOCペアレンツサミットプロデューサー(文部科学省支援事業)、一般社団法人次世代SMILE協会代表理事。トップアスリートのコーチングなどから得られた知見を生かし、スポーツコーチ、保護者、保育者、企業を対象に活動を行っている。現在、順天堂大学大学院医学研究科医学専攻博士課程在学中。著書に、『一流選手の親はどこが違うのか』(新潮社)、『杉山式スポーツ子育て』(WAVE出版)ほか。

桑戸真二・プロフィール:一般財団法人総合福祉研究会理事、NPO法人福祉総合評価機構専務理事、(株)福祉総研代表取締役。(株)フレーベル館顧問。幼稚園・保育園から認定こども園への移行に関するコンサルティングなどを多数手がける。関係省庁・団体とのつながりも深い。

保育ナビ倶楽部 会員限定メールマガジン 2016年9月15日号「コンサルタント・桑戸的な視点」から)

 

 

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