コラム

第3回 色の漢字見つけ

 

執筆/首藤久義
プロフィール:千葉大学名誉教授。『はじめてつかう漢字字典』の編著者。

 

咲いた、咲いた、チューリップの花が。
並んだ、並んだ、赤白黄色。
どの花見ても、きれいだな。

 

これは、童謡「チューリップ」の1番の歌詞(作詞:近藤宮子)を、漢字仮名交じり文にしたものです。
この中に色の漢字が3つあります。見つかりますか?

赤(あか)

白(しろ)

黄(き)

の3つですね。

 

信号の色について私には面白い経験があります。
あるとき私は、英国人の友人を車に乗せてドライブしていました。
ある交差点で、信号が赤だったので停車しました。
そして、青に変わったとき、その友人は、

イッツ・グリーン!(It’green!)

と言ったのです。
「グリーン」の意味は「緑」です。
それを聞いた私は、「えっ?!」と思いました。
「青なのに?」と、不思議に思ったのです。
「ブルー(青)じゃないの?」とその友人に言い返すと、
英国では信号の色は、グリーン(green )イエロー( yellow )レッド( red )と呼ばれていると教えてくれました。
英国人は、交通信号の色を

緑(みどり) 黄色(きいろ) 赤(あか)

と言っているのですね。(末尾補注 1 参照)
次の写真は、私の家の近くにある交通信号の写真です。

一番左の信号灯の色は、何色に見えますか?
青ですか?緑ですか?
英国人の友人からグリーンと言われて以後、私には、信号の青 は、青よりも緑に近い色に見えるようになりました。 不思議です。
でも、日本では 信号の色を、

 

青(あお) 黄色(きいろ) 赤(あか)

と言いますね。
「青は進め」
「黄色は注意」
「赤は止まれ」
とも言いますね。

では、なぜ、日本では、信号のすすめの色を 「青」と言うのでしょうか?
日本語の「青」という言葉の意味には、青空の青のような色も含まれますが、新鮮でみずみずしいとかいう意味もあるようです。そこから、「青々とした野菜」 「青野菜」 という表現が生まれたのだと思われます。
その場合の「青」は、青空の色のような青ではなくて、植物の葉の色のような 緑のことを意味していると考えられます。 「青々とした森」 「青菜(あおな)」 「青葉」 「青虫」「青がえる 」「青りんご」などと言う場合の「青」が表す色は、青ではなくて緑ですね。
これらの例からもわかるように 、日本語の「あお(青)」が表す意味には、青色だけでなく緑色にも及ぶ広がりがあるのだということがわかります。
交通信号の緑色に近い色を「青」と呼ぶ習慣には、日本語の色の呼び方の伝統 が影響しているのではないかと私は推測しています。

 

「郵便ポストは何色ですか?」と聞かれたら、あなたはどう答えますか?
きっと、「赤!」と答えるでしょう。
私もそう答えていました。
そして、郵便ポストの色が赤いのは世界共通だと思っていました。
ところがある時、ドイツに行って、街角にある郵便ポストを見て驚きました。
なんと、黄色だったのです。
日本の郵便のシンボルカラーは赤ですが、
ドイツの郵便のシンボルカラーは黄色だそうです。
では、アメリカはどうでしょう?
アメリカの郵便ポストは、なんと、青色だそうです。

日本とアメリカとドイツの郵便ポストの色を並べると、

赤(あか)  青(あお)  黄(き)

になりますね。

この3種類の色(赤と青と黄)は、「三原色」と言われます。
世界を見わたすと、三原色のほかにも、緑やオレンジなど、いろいろな色の郵便ポストがあります。
図鑑やインターネットで調べてみてください。
いろいろな色があることがわかりますよ。

 

絵の具の赤や青や黄色に、白を混ぜるとどうなるでしょうか?
より明るくなります。
白の割合を増やせば、増やした分だけ明るくなります。
では、黒を混ぜるとどうなるでしょう?
そうです、より暗くなります。
黒の割合を増やせば増やした分だけ暗くなります。
白と黒は、色の明るさを調整する働きをもっているんですね。
機会があったら、やってみてください。

 

三原色の赤・青・黄に、白と黒を加えると、赤・青・黄・白・黒の5色になります。
この5つの色の絵の具を混ぜれば、様々な色合いと明るさの色を作ることができます。
この5つの色は「五色の短冊」(ごしきのたんざく)と言われる場合の5色でもあります。(末尾補注2参照)

さて、次の5種類の古代文字は、それぞれ、赤・青・黄・白・黒のどれかを表しています。
どれがどの色を表しているでしょう?  今の漢字の形に似ていますので、それをヒントに考えてみましょう。

①「白」の成り立ち

まず、「白」(しろ)を探してみましょう。上の5つの古代文字のうち、「白」を表しているのはどれでしょう?

 

そうです。これが、の古代文字です。
今の漢字「白」と似ていますね。
では、この形がどうして「白」(しろ)という意味を表すのでしょうか?
この形はどんぐりに似ていますね。
どんぐりを見たことがありますか?
そのどんぐりは白く見えましたか?
白くは見えなかったと思います。
どんぐりの色は、外から見ると、緑色か茶色に見えますよね。
ところが、どんぐりの皮をむくと、中から白い実が現れます。
その白い実を粉にすると白い粉になります。
大昔の人は、どんぐりの白い粉を食料にして親しんでいたと思われます。
だから、大昔の人は、どんぐりの形で白を表したのではないかと思われます。
これについては別の考え方もあります。
この形を、白骨化した頭蓋骨の形だと考えるのもその一つです。
その考え方によると、白骨化した頭蓋骨の形で「白」(しろ)を表したのだということです。
古代文字の成り立ちは、のちの人が想像して考えるしかありませんので、いろいろな考え方が生まれます。

 

②「黒」の成り立ち

色の中で、最も暗い色は何色でしょう?
そうです。「黒」(くろ)です。
上に示した、5つの古代文字の中で、「黒」という漢字に最も近い形はどれでしょう? 探してみましょう。

 

そうです。これが、の古代文字です。
今の漢字「黒」と似ていますね。
下半分は、「火」が2つ重なった漢字「炎」(ほのお)の形です。
この古代文字の上半分は、炎のから出る「すす」(煤)を表した形だと考えられます。
ろうそくの炎の上に、ガラス板をかざしておくと、黒い粉のようなものが付きます。
それが「すす」です。 昔の人は、この「すす」を利用して黒い線や文字を書きました。

 

③「赤」の成り立ち

「赤」(あか)の古代文字は、どれでしょう? 5つの古代文字から探してみてください。
見つかりますか?

 

そうです。これが、の古代文字です。
今の漢字「赤」と似ていますね。
この形の下半分は、燃える「火」の形です。
上半分は、火に向かって両手両足を広げて立っている人の形と考えられます。人が火に照らされて、赤く見える様子から「あか」「あかい」の意味をもつ、「赤」という漢字ができたと考えられます。

 

④「青」の成り立ち

「青」(あお)の古代文字は、どれでしょう? 5つの古代文字から探してみてください。
見つかりましたか。

  

そうです。これがの古代文字です。
今の漢字「青」と似ていますね。
上半分の

 

は、漢字「生」の古代文字です。この形は、大地から青々とした緑の草が生える様子を表しています。水平線で表された大地から、草が生える姿に見えませんか?

下半分の

 

は、「月」です。
この「月」は、井戸の清い水を表す形から変化してできた「月」です。
三日月の形からできた漢字「月」と同じ形をしていますが、この「月」は「井戸の形からできた月」という意味で、「井戸月(いどつき)」と呼ばれます。

大地に青々した草が生えている形と井戸の清い水を合わせて、「青」 という古代文字ができて、それが現代の「青」になったのだと考えられます。
漢字「青」の音読み(おんよみ)は、漢字「生」(せい)と同じ「せい」です。

晴天(せいてん)  晴れる(はれる)

などに使われる漢字「晴」の音読み(おんよみ)も「せい」です。
この漢字「晴」は、

日+青→晴

となっていて、青い空にお日さまが出ている様子が目に浮かぶようです。
ちなみに、漢字「生」には、「生える」「生まれる」「生きる」「生命」「生活」などの意味があります。

 

⑤「黄」の成り立ち

「黄」(き)の古代文字は、どれでしょう? 5つの古代文字から探してみてください。
見つかりますか?

 

そうです。これがの古代文字です。
今の漢字「黄」と似ていますね。
この古代文字は、「火矢」(ひや)の形を表していると考えられています。
「火矢」とは、燃えやすいものを巻き付け、火を付けて飛ばす矢のことです。 燃える炎の色が黄色く輝くので、この形で「黄色」(きいろ)の意味を表すようになったと考えられています。

 

三原色(赤・青・黄)のそれぞれを混ぜ合わせると、どんな色になるでしょう?

①赤と青を混ぜると、どんな色になるでしょうか?

になりますね。

 

②青と黄を混ぜると?

になりますね。

 

③黄と赤を混ぜると?

になりますね。

 

皆さんは、虹を見たことがありますか?
どんな色が見えましたか?
インターネットで「虹の色」と検索すると、いろんな虹の写真が見つかります。
一度、見てみてください。
いろんな色が見えて、楽しくなりますよ。

 

 

日本では、虹の色は7色だと言われます。
それは、どんな7色でしょう?
日本では、虹の色は、外側から順に、

赤(あか)橙(だいだい)黄(き)緑(みどり)青(あお)藍(あい)紫(むらさき)

と言われます。
空に虹が出た時や、写真の虹をよく見るとわかりますが、色と色との境目がぼんやりとしています。色合いがだんだん変化して隣(となり)の色になるというのが、本当の虹の色のようです。
そのためか、世界には、虹の色の数え方がいろいろあるようです。
アメリカやイギリスでは6色、ドイツやフランスでは5色と数えるようです。
そのほか、4色と数えるところもあり、8色と数えるところもあるようです。

【補注1 】国際照明委員会( CIE )が規定している信号の色は「赤、黄、緑、青、白」の 5色です。そのうち、交通信号機には「赤、黄、緑」の3色が割り当てられています。皆さんご存じのように日本のパトカーの警告灯は赤ですね。私がドイツで驚いたことの1つは 、パトカーが青色の警告灯を照らして走っていたことです 。ドイツのパトカーの警告灯の色は青に統一されているそうです。
【補注2 】この5色のうちの白と黒は、緑と紫に置き換えられる場合もあります。


 
 <次回も漢字が楽しくなるコラムをお届けします! お楽しみに>

 

 

 

今回は、漢字字典の楽しい使い方をご紹介します。
この漢字字典には、漢字の意味を教えてくれるイラストがついています。

 

 

このイラスト、ページによってはつながったお話になるんです!
例えばこのページだと・・・

「一」・・・りんごが一つありました。

「七」・・・りんごは七人きょうだいです。

「下」・・・りんごがを見てみると・・・あれれ。

「三」・・・かんちゃん、くまだくん、べるちゃんの三人が立っています。

「上」・・・そこに突然、から大きな箱が落ちてきました!

「中」・・・から出てきたのは、宇宙人! あ~びっくり!

こんなふうに漢字を使ってお話を作ってみると、おもしろいですね。
ぜひ、それぞれのページのイラストを見ながら、漢字との出合いを楽しんでくださいね。

 

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監修/村石昭三(国立国語研究所 名誉所員)
編著/首藤久義(千葉大学 名誉教授)

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規格 : 22×15cm 412ページ
ISBN : 9784577814468

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