コラム

コンサルタント・桑戸的な視点 第4回 

桑戸真二(株式会社フレーベル館保育経営アドバイザー)、安岡知子(特定社会保険労務士)

■ 第16回 処遇改善等加算Ⅱ ■

新制度に移行した平成27年度から、人件費の加算をするための処遇改善等加算Ⅰが、公定価格に組み込まれています。これに加え、今年度からは技能・経験を積んだ職員に係る追加的な人件費の加算、処遇改善等加算Ⅱを受けることができます。
すでに、内閣府・厚労省・文科省から発出された通知文やFAQをご覧になったり、都道府県ごとの行政説明等により、加算額の算定方法や、支給対象者の要件など、処遇改善等加算Ⅱの概要はご存じのことかと思います。
今回は処遇改善等加算Ⅱを実際に園でどう取り扱ったらよいか、園の人財コンサルタントをされている特定社会保険労務士の安岡知子先生にお話を伺いました。

桑戸:
現段階では処遇改善等加算Ⅱについて詳細が掴み切れていませんが、園長先生からどのようなご質問が寄せられていますか。

安岡:
園に特化した人財コンサルタントをしております安岡知子と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
今は、多くの園長先生から「どの職員に、いくら支給したらよいのか」とご相談をいただきます。特に、副主任クラスの職員に月額4万円の手当を支給すると、主任の手当を超えるという逆転現象が起きる場合です。処遇改善等加算Ⅱの趣旨としては、副主任クラス以下の技能・経験を積んだ職員に対する人件費の加算ですが、この点についてFAQにも記載があります。主任保育士や主幹教諭に相当する職種、幼稚園の副園長・教頭については、今回の処遇改善の主たる対象としていませんが、給与水準のバランス等を踏まえて、月額5千円以上4万円未満の範囲の賃金改善を園の判断により行うことが可能です。

桑戸:
副主任の役職についた職員に月額4万円を支給するわけですから、もし役職を外されたら、年収ベースで48万円もダウンしてしまうわけで、金額が大きいだけに、一度発令した役職は動かしにくいですね。

安岡:
そうです。ここ1~2年の短期的な視点でみれば、国の処遇改善等加算Ⅱの通知文を踏まえて、園の収入額を計算し、役職や職務内容を決め、支給対象とする職員に発令・職務命令して支給することはそんなに難しくはないでしょう。しかし、5年~10年先を見据えて、園児数が増えているのか、減っているのか、そして技能・経験を積んだ職員が増えているのか、減っているのか、園の状況を想定せずに、「とりあえず」の支給をすることは、園の人件費率の増加、経営への影響を考えると避けるべきと考えます。

桑戸:
では、実際に、この制度を園で活かしていくには、どう扱うのがよいのでしょうか。

安岡:
園長先生がどのような組織にしていくのか組織のあり方を明らかにしたうえで、そのためには、どのように職員を育成したらよいかを決め、処遇改善等加算Ⅱで見込まれる収入額をもとに、支給対象とする職員の役職や職務内容、また人数と金額を設定することをお勧めしたいと思います。役職名や職務内容の設定は園で決めることができます。

例えば、大型園で、将来的にも職員数が多く、職員の入れ替えがある程度の割合で起こる園であれば、組織の大きさに合わせて、各段階で複数の役職者を設定することが可能になります。そして、クラスリーダーから、副主任、主任、副園長、園長へと、一定のラインと役職がある組織づくりを見据えて育成できるような、職務内容を設定することも一案です。ただし、懸念されることがあります。どの職員を将来の役職者にしていくのかという選定基準があいまいになっていると、選ばれた職員と、そうでない職員双方の納得が得られず、人間関係がギクシャクしてしまいます。同期採用が多く、同じような技能・経験をもった職員が何人かいるような場合には、より明確な選定基準と、役職者の職務内容が必要になりますね。

桑戸:
逆に、園児が徐々に定員を割るようになり、職員も少なく、職員がすべての園児と保護者のお顔を把握しているような、職員の入れ替えがほとんどない小規模園ですと、役職数は限られていますので、大型園のように複数の職位を設けることは難しいのではないでしょうか。

安岡:
おっしゃる通りです。そのような園でしたら、中堅層の厚い組織づくりに取り組んではいかがでしょうか。職位としての副主任を置かず、経験3年目以降となった職員を対象に、専門職としての育成を強化するジョブローテーションと処遇改善等加算Ⅱの職員への支給を連動させるというものです。乳児、幼児、障害児、食育、子育て支援などの専門リーダーとしての職務内容を設定し数年かけてローテーションしながらすべてを経験していく方法です。イメージとしては、専門リーダーとして「担当」を持ち回りしていくため、縦にのぼるラインではなく、横円盤でぐるぐる回っている感じです。専門性というバームクーヘンの層が段々と厚くなっていく感じでしょうか。専門性が高い職員が揃っている園は保護者から見ても魅力的なはずです。園児のV字回復も望めますよね。

国が処遇改善等加算を実施する目的は、「職員の資質向上を図り、質の高い教育・保育を安定的に供給するため・・・」です。そして、教育・保育の質を支え、担保しているのは職員です。今年からスタートする処遇改善等加算Ⅱは、園長先生が目指す組織づくりに向けて、より職員の資質を向上させるためのものと捉え、ぜひ活用していただきたいと思います。

今回のメルマガはいかがだったでしょうか。また、次回もよりよい情報をお届けしますので、どうぞお楽しみに!

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桑戸真二・プロフィール:一般財団法人総合福祉研究会理事、NPO法人福祉総合評価機構専務理事、(株)福祉総研代表取締役。(株)フレーベル館保育経営アドバイザー。幼稚園・保育園から認定こども園への移行に関するコンサルティングなどを多数手がける。関係省庁・団体とのつながりも深い。

安岡知子・プロフィール:社会保険労務士法人 人財総研役員、㈱福祉総研KYOSTA事業部長。園の勤務経験をもとに、それぞれの法人の現状を踏まえた「現実的なアドバイス」「実施可能なご提案」など「人」に関わる分野で園経営をサポート。2017年度保育ナビに「それぞれの園のための就業規則を考える」連載中。

(保育ナビ倶楽部 会員限定メールマガジン 2017年7月15日号から)

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