コラム

知っておきたい!園経営の視点 第7回

杉山 舞(一般社団法人次世代SMILE協会主任研究員)、 桑戸真二(株式会社フレーベル館 保育経営アドバイザー)

■ 第7回 コーチング〈後編〉~個人の気づきと能力を引き出す手法 ■

今回の『桑戸的な視点』は、コーチング〈後編〉をお送りいたします。前回は、コーチングの指導で保育現場にかかわるパーム・インターナショナル・テニス・アカデミー校長の杉山芙沙子氏にご登場いただきました。今回は杉山芙沙子氏が代表理事を務める一般社団法人次世代SMILE協会・主任研究員の杉山 舞氏より現場での取り組みと成果をお話しいただきます。

(以下、全文、杉山 舞氏のお話となります)

●答えはその人の中にある

保育現場における離職原因の1つである「職場での人間関係」の改善策として、双方向のコミュニケーションを促すコーチングという手法について、取り組んでいる活動とともにお話をさせていただきます。コーチングと、カウンセリングやコンサルティングとの大きな違いは、「答えはその人の中にある」という立ち位置であり、専門知識をもとにアドバイスを行うカウンセリングやコンサルティングとは異なり、コーチングを行うことで、保育者自らが問題に気づき、そこから課題解決や目標達成に取り組んでいます。

●想いを伝えられない2つの理由

職場での人間関係における悩みの根幹に、保育者が自分の想いを伝えられないことが挙げられます。自分の想いや考えを伝えることができない理由は大きく分けて2つあります。1つ目は、保育者が目の前で起きている事実と、それに伴う自分の想いを区別して、相手に伝えることが不得意であることです。2つ目は、伝えることによって相手を傷つけてしまい、結果雰囲気が悪くなり仕事がやりにくくなることを避けたいという想いがあることです。しかし、そのように自分の想いや考えを伝えられないまま過ごしてしまうと、不満やストレスがたまり、自分以外の悪い要因に目を向けて、やがては退職という考えが頭をよぎるようになります。

私がコーチングを行わせていただくと、実際には多くの保育者が、職員間で互いの意見を交わし合い、話し合いながら物事を決めていくことを望んでいることがわかります。コーチングにおいては、保育者本人が真に求めることを話し合いの中から引き出し、そのためにはどのような行動をとっていけばよいかを具体的に共に考えていきます。

●コーチングで問題の根本が見えた事例

例えば、経験や知識が豊富な主任が運動会での出し物を子どもたちに指導する際に、ほかの保育者がなかなか思ったように動いてくれず、ストレスをためてしまうことがあります。そこで、コーチングを行うと、主任はさまざまな流れを全て頭の中で把握し、行うことが時系列で明確にイメージできていますが、ほかの保育者が同じことをイメージできているとは限らないということが見えてきます。

このイメージすることは、保育現場でとても大事なことです。そのことを理解すると、まずは主任の頭の中の内容を保育者に伝える必要があるとわかります。この気づきを職員間で共有した結果、多くの保育者が主任の考えを理解して動くようになり、スムーズに子どもたちへの指導を行えるようになりました。この事例では、はじめは自分と他者のスキルのギャップが課題であるかのように見えることが、コーチングを行うことで、実際には自分の意見を伝えられていないことが課題かつ本人を苦しめていたことが明らかになったのです。このように、コーチングの手法には、特に人間関係において問題を根本から解決する力をもっていることがわかってきました。

●個人の気づきと能力を最大限に引き出す

離職を考えるもう1つの大きな理由に、園の理念が浸透せず、保育者の帰属意識が確立できないことが考えられます。保育者の多くが園の理念に共感し就職を決めますが、その想いがいつの間にか薄れてしまい、辞めて他園へと移っていくことは少なくありません。その原因として、園の理念が一方的で保育者に伝わっていないことや、保育者の理念に対する解釈もさまざまであることが挙げられます。そこで、コーチングを通して、保育者一人ひとりが理念をどのように解釈しているかを引き出し、園とのギャップを認識し、共通の認識へとつなげることが可能となります。

この活動において、たくさんの保育者との対話から、保育者のもつ素質の素晴らしさに気づかされましたが、同時に、その能力が最大限に発揮されていないと感じます。保育者の能力をコーチングという手法に基づいて最大限に発揮することができたら、子ども、園、そしてやがては社会全体をよくする大きな力になると信じています。

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杉山 舞・プロフィール:一般社団法人次世代SMILE協会主任研究員。アンガーマネジメントファシリテーター、アンガーマネジメントキッズインストラクター、アンガーマネジメント診断士。元プロテニスプレーヤー杉山 愛の妹であり、杉山 愛のコーチであった杉山芙沙子の娘。アスリートとアスリートを支えるアントラージュ(協力者)双方の立場を客観的に見てきた経験から独自の人材育成観を確立し、スポーツを通した子どもと指導者のコミュニケーションという観点で、コーチングのプロフェッショナルを目指すようになる。現在、独自の経験と見解をもとに次世代を担う子どもたちにかかわる指導者・保育者の能力を引き出す活動を行っている。

桑戸真二・プロフィール:一般財団法人総合福祉研究会理事、NPO法人福祉総合評価機構専務理事、(株)福祉総研代表取締役。(株)フレーベル館顧問。幼稚園・保育園から認定こども園への移行に関するコンサルティングなどを多数手がける。関係省庁・団体とのつながりも深い。

保育ナビ倶楽部 会員限定メールマガジン 2016年10月15日号「コンサルタント・桑戸的な視点」から)

 

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