コラム

知っておきたい!園経営の視点 第10回

桑戸真二(株式会社フレーベル館 保育経営アドバイザー)、門田恭子(税理士門田恭子事務所代表)

■ 第10回 財務の透明性 ■

第9回の『社会福祉法改正で留意すべきこと』に引き続き、今回は社会福祉法人制度改革について、特に「財務」に注目しながら、もう少し踏み込んで考えていきたいと思います。公認会計士・税理士である門田恭子先生にお話を伺いました。

桑戸:

今回の社会福祉法人制度改革の柱のひとつに、「事業運営の透明性の向上」がありますね。

社会福祉法人は、その運営に関する様々な情報を公開することが義務付けられ、今まで公開されなかった定款や役員報酬基準も公開の対象となりました。門田先生は「事業運営の透明性の向上」についてどのようなお考えを持っていらっしゃいますか。

門田:

はじめまして。公認会計士・税理士の門田です。どうぞよろしくお願いいたします。

「事業運営の透明性の向上」の中には、様々な情報の公開が含まれていますが、公認会計士としてお話ししたいと思います。

子どもの頃、自分はお小遣い制だったという方はどのくらいいらっしゃいますでしょうか? お小遣いをもらって、自由に使えていたという方、○○を買う時は保護者の許可が必要だったがそれ以外は自由に使えていたという方、お小遣い帳に記録して保護者に報告しなければならなかったという方など、様々だと思います。お小遣いを出す保護者側の気持ちと子どもに対する信頼度が、お小遣いの使い方に現れています。

保護者と子どもという関係性の中では、特に報告しなくても近くにいる保護者には子どもが何を買っているのかある程度 わかるものですが、保護者を「お金を出す側=納税者」、子どもを「お金を使う側=税金を投入する社会福祉事業者」と置き換えて考えてみると、お金を使う側の使い方は、お金を出した側からは全く見えなくなってしまいます。

そこで、納税者側としては、1年間にどれくらいの税金が投入され、その税金をどのように使ったかという報告を受ける権利があり、税金が投入された社会福祉事業者側では報告する義務が発生します。

また、株式会社のような利益を追求する営利企業は、その競争ルールの中であれば、自由にその資金を活用してさらに利益を追求することができますが、税金が投入される、あるいは税金が免除される非営利法人においては、その資金使途等についても社会的な監視の目によって、より公益性の高い事業が行われるように資金を使うことが求められるため、財務情報については、きちんと公開していかなければならないのです。

桑戸:

お小遣いの例えと置き換えでよくわかりました。社会福祉法人は、高い公益性と非営利性を備えた「公の支配」に属する法人ですからね。

門田:

そうです。社会福祉法人に「事業運営の透明性の向上」が求められるのは、その非営利性・公益性の観点から、適正な運営の確保が行われていることを広く国民に対して説明する責任を果たす必要があるからです。社会全体に対して広く情報を公開することで、国民全体がその活動を監視するという理念に基づいています。

桑戸:

社会福祉法人制度改革では、「ガバナンスの強化」「財務規律の強化」等も求められていますが、いわゆる不正経理の防止につながるとお考えですか。

門田:

公開される財務情報に目を向けていきますと、正しく会計基準を理解していなかったために間違った財務情報が公開され、その間違った財務情報によって、問題なく運営されている社会福祉事業者の実態が正しく理解してもらえない場合や、きちんと運営されていないことを隠す不正の隠蔽がなされた財務情報が公開され、間違って運営されている実態が見えなくなってしまう場合があります。

どちらも、財務情報が公開されているとはいえ、間違ったフィルターを通して公開されていますので、透明性が確保されたとは言えません。公開する財務情報が信頼するに足り、ありのままの社会福祉事業者を表していてこその財務の透明性が確保されることになります。

一定規模以上の社会福祉法人については、公認会計士監査を通じて計算書類その他の財務に関する情報の信頼性を確保することが求められていますし、一定規模に達していない社会福祉法人においても、会計の専門家である公認会計士・税理士等のアドバイスを受け、適正な財務情報を公開していく必要性も今回の制度改革で言われている部分です。

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桑戸真二・プロフィール:一般財団法人総合福祉研究会理事、NPO法人福祉総合評価機構専務理事、(株)福祉総研代表取締役。(株)フレーベル館保育経営アドバイザー。幼稚園・保育園から認定こども園への移行に関するコンサルティングなどを多数手がける。関係省庁・団体とのつながりも深い。

門田恭子・プロフィール:公認会計士・税理士門田恭子事務所代表。一般財団法人総合福祉研究会の会員事務所として、会計分野を中心に、社会福祉法人経営をサポート。社会福祉法人会計簿記講座の講師なども務める。

 

保育ナビ倶楽部 会員限定メールマガジン 2017年1月15日号「コンサルタント・桑戸的な視点」から)

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