コラム

コンサルタント・桑戸的な視点 第10回 

桑戸真二(株式会社フレーベル館保育経営アドバイザー)、安岡知子(特定社会保険労務士)

■ 第22回 「無期転換ルール」に対し、準備を始めてください ■

来春「無期転換ルール」に転換、これは2017年12月20日の日経新聞の見出しです。「2018年度問題」として、労働契約法の無期転換ルールがネットニュースや新聞等で取り上げられることが多くなりました。今号では無期転換ルールを正しく理解し、園への影響を考えながら、園が準備すべきことを考えたいと思います。園の人財コンサルタントをされている特定社会保険労務士の安岡知子先生にお話を伺いました。

桑戸:

無期転換ルールとは? わかりやすく教えてください。

安岡:

こんにちは。安岡知子と申します。8月号以来となります。どうぞよろしくお願いいたします。

期間の定めがある労働契約(以下、有期契約)が5年を超えた職員から申し込みがあったら、次回から、期間の定めのない労働契約(以下、無期契約)にしなければならないという、労働契約法第18条のことです。

桑戸:

この無期転換ルールに対して、園長先生たちはどのような心配をされていますか。

安岡:

「無期転換=正規職員にさせなければならないのか?」と、勘違いされる園長先生がたくさんいらっしゃいます。

無期転換ルールは、無期転換=正規職員、というものではありません。あくまでも、労働契約の期間を、有期契約から無期契約に転換するだけでよいのです。おそらく、この勘違いの背景には、職員の職務内容があいまいになっていることが主な要因としてあるのではないかと考えます。

桑戸:

具体的には、どういうことでしょうか。

安岡:

例えば、園の中には、臨時職員、準職員等の名称で、1年ごとに労働契約を更新している有期契約の職員(以下、臨時職員等)がいます。この臨時職員等の労働日数、労働時間は正規職員と同じ、職務内容もほぼ正規職員と同じです。しかし、正規職員に比べると、月給も年収額も低めに設定していることがよく見られます。

あるいは、フルタイムで働いているパートタイム職員(以下、フルタイムパート職員)の中には、能力が高くてどんどん仕事をしてくれるので、ほぼ正規職員に匹敵するくらいの職務内容をこなしている職員がいることがあります。しかし、あくまでも非正規職員ですから、時給の設定は低めで、賞与があっても寸志程度にしています。

これらの、臨時職員等、フルタイムパート職員から申し込みがあり、無期転換させなければならないと言われると、労働時間も職務内容も正規職員とほぼ同じですから、園長先生がつい勘違いされるのも頷けます。

桑戸:

今のままでは、労働時間、職務内容は同じなのに、賃金だけは正規職員に比べて低いという格差が生じてしまいます。だからといって、無期転換ルールによって、臨時職員等、フルタイムパート職員を正規職員にしたら、人件費が経営を圧迫する心配が出てきますしね。

安岡:

そうですね。最近話題の「同一労働同一賃金」の考え方からも整合性がとれていないことが問題です。「同一労働同一賃金」は厚生労働省からガイドライン案が示され、関連法案の施行は2019年度が予定されていますので、注視しています。

桑戸:

では、どのようにすれば、本来の無期転換ルールのとおり、無期転換しても、労働契約の期間を、有期契約から無期契約に転換するだけでよい、と言えますか。

安岡:

この問題に対応するには、正規職員、臨時職員等、フルタイムパート職員のそれぞれの職務内容を職種ごとに明文化することが必要です。そして、それぞれの職務内容を就業規則や労働条件通知書に明記をします。臨時職員等は職務内容を統一的に設定することをお勧めします。それにより、正規職員との職務内容の違いを、就業規則で定めることができるからです。

例えば、職種を保育教諭にして考えてみましょう。保育教諭の職務内容を全部洗い出し、明文化します。そのうえで、正規職員の保育教諭のみが担う業務と、正規職員と臨時職員等の保育教諭が担う業務に分類していきます。保育教諭として全部で10の職務内容があるとすれば、正規職員は10の職務内容すべてを担い、臨時職員等は10から減らした9以下の職務内容を担うことになります。この職務内容の違いが月給や年収額の差になります。

つまり、職務内容が異なるので、正規職員に比べ月収も年収も低めに設定していても、「同一労働同一賃金」の考え方からも問題はありません。就業規則に、正規職員と臨時職員等の職務内容がそれぞれ明記されていれば、有期、無期にかかわらず、臨時職員等が不満を漏らすこともなくなるでしょう。

桑戸:

では、フルタイムパート職員の場合は、労働条件通知書に明記するのですか。

安岡:

そうです。フルタイムパート職員も含め非正規職員でしたら、個別の労働条件通知書で職務内容を明記します。

例えば、非正規職員の保育教諭でしたら、先ほどの保育教諭の10の職務内容のうち依頼する業務を決め、限定的に責任をもって担ってもらうもの、補助してもらうものを明確にします。さらに、個別に担ってもらいたい業務を加えます。そして、職務内容の重い・軽い、多い・少ないに応じて、時給や日給を設定してください。

今号で、無期転換ルールについて取り上げたのは、早ければ今年の4月から有期契約の職員からの申し込みがあるかもしれないからです。実際に、転換させるのは2019年4月からになりますが、ぜひ、準備を始めてください。正規職員、臨時職員等、フルタイムパート職員の職務内容を明文化し、就業規則や労働条件通知書に明記をしていただければと思います。来月号も引き続き無期転換ルールについてお話をしていきます。

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桑戸真二・プロフィール:NPO法人福祉総合評価機構専務理事、(株)福祉総研代表取締役。(株)フレーベル館保育経営アドバイザー。幼稚園・保育園から認定こども園への移行に関するコンサルティングなどを多数手がける。関係省庁・団体とのつながりも深い。

安岡知子・プロフィール:社会保険労務士法人人財総研役員、㈱福祉総研KYOSTA事業部長。園での勤務経験をもとに、それぞれの法人の現状を踏まえた「人」に関わる分野での「現実的なアドバイス」「実施可能なご提案」などで園経営をサポート。2017年度保育ナビに「それぞれの園のための就業規則を考える」連載中。

保育ナビ倶楽部 会員限定メールマガジン 2018年1月15日号から)

 

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