コラム

知っておきたい!園経営の視点 第5回

桑戸真二(株式会社フレーベル館 保育経営アドバイザー)

■ 第5回 経営の「正解」とは? ~この夏、視点を増やしてみる~ ■

●園はだれのもの?

「会社はだれのものか」という問いに対して、「経営者のものだ」「従業員のもの」「株主のもの」「社会のもの」という議論が、よくなされます。どれも正しくて、でもどれ一つとしてそれだけで唯一の正解となる答えはありません。

では「園はだれのもの」でしょう? 園に課せられた社会的使命からすれば「子どもたちのもの」「保護者のもの」、あるいは「地域のもの」「国や社会のもの」かもしれませんし、一方で園に人生を捧げ、園を園として存続せしめている「職員のもの」「経営者のもの」であるという見方も、一面では真実でしょう。ことほど左様に、何事もそれぞれの人の価値観によって……だけでなく、同じ人でも置かれた立場や状況によって、見え方や受け取り方が変わるものですね。

●時代の動きを察知した時、あなたは……

「レンガ積み職人たちの話」をご存知でしょうか。もとはイソップ童話から採られた話だそうですが、教会の建設現場でレンガを積んでいる職人たちに「何をしているのか」と尋ねたところ、「見ての通り、レンガを積んでいるんだよ」「こうやって教会の壁を作ってるんだ。おれはこの仕事で女房と子どもを養っているのさ」「見てみろ、おれは歴史に残る立派な教会を造っているんだ。完成すれば多くの人々の心のよりどころになるだろう」と、それぞれに答えが返ってきた……というものです。働く意味・目的や経営のあり方を考える時によく用いられる寓話ですが、昨今の待機児童対策をめぐる議論でも、同じようなことを思うのです。

待機児童解消を目指して保育所を50万人分つくる、という政府方針を聞いて、どんな“第一感”をもったでしょうか? 「世のお母さん方の子育てと就労にとって素晴らしいことだ」「ライバル園が増えて、ますますうちは大変だ」「職員確保がさらに厳しくなるわ」「開園して事業を拡大するチャンスが来たかも」……どれが正しくてどれが間違っている、ということを言いたいのではありません。ただ、時代の動きを察知した時にどう感じ、考えたかによって、その後の経営者としての行動も自ずと決まることは確かでしょう。

●情報のとらえ方を変えてみる

例えば園に資金を残すことについても同じです。あなたは何のために毎年お金を貯めていますか? 「残しておかないと何となく将来不安だから」「園舎の大規模修繕や備品購入のため」「施設数を増やすため」……理由も目的も様々でしょうが、経営者として何らかの「意思(考え・思い)」と「意志(成し遂げようとする心)」をもち、その実現のために資金を残す、というのが「経営」でしょう。さらに言えば、繰り返しになりますが社会での事象をどのような視点でとらえるかによって、発想もその展開も、そして行動も変わるのですから、最初の直観を大事にしつつも、それに縛られず自由なものの考え方を心がけることも、リーダーとして、とても大切なことだと思います。

前述の例で言えば、「自園にできることで地域や社会に貢献するため」に資金を残してゆくのだ、と考えてみるとどうでしょう。より広い視野でお金の使い道を考えられるだけでなく、国や自治体の政策など、様々な情報のとらえ方もきっと変わるはずなのです。光が当たらなければものは見えず、見えるものからしか確かな判断はできないのだとすれば、光の当て方を一方向ではなく複数に増やせばよいのです。園の存続と組織の安定のために様々な布石を打ってゆくと同時に、地域の実情を知り、何ができるか、どんな貢献をすべきなのかを考えながら社会の動きを見つめること、それもまた「経営」です。

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桑戸真二・プロフィール:一般財団法人総合福祉研究会理事、NPO法人福祉総合評価機構専務理事、(株)福祉総研代表取締役。(株)フレーベル館顧問。社会福祉法人の新規設立・複合施設の企画・立案等を多数手がける。関係省庁・団体とのつながりも深い。

(保育ナビ倶楽部 会員限定メールマガジン 2016年8月15日号「コンサルタント・桑戸的な視点」より)

 

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