コラム

園のパフォーマンスを上げる「職場づくりのヒント」第5回

師岡章(白梅学園大学子ども学部教授)

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第 5回 教職員の得意分野を伸ばしていこう!

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「管理職が全権を掌握し、部下にマニュアルに基づく業務遂行を指示・命令する。」

仕事の効率化、また商品の品質管理を重視する企業にしばしば見られる光景です。

 近年、保育の世界でもこうしたマニュアルに基づき、業務を遂行させるケースが増えているようです。特に、理事長や園長などの管理職が若い世代に交代した園、また複数園を経営する法人の中などでは、こうした会社組織のノウハウを積極的に導入するケースも増えているようです。

◆マニュアル主義を脱皮しよう

 確かに、園には保育方針があり、それに共感する保護者が可愛いわが子の保育を委ねているわけですから、全教職員が園の方針を理解し、足並みを揃えた対応を進めることは大切でしょう。提供する保育の質を維持するためにも必要なことだとは思います。

 ただ、保育は個性をもつ人間としての子どもと保育者がかかわり合うなかで展開されるものです。そのため、同じ年齢のクラス同士でも、異なる姿や活動の展開が見られます。管理職から見れば、ハラハラ、ドキドキすることも多いかもしれませんが、そうした違いこそ、保育の醍醐味、またおもしろさだと言えるのではないでしょうか。

 社員をマニュアルから解放し、自由な発想を尊重するなか、新しい商品開発に成功している企業も見られるようですが、人間を育てる保育こそ、こうした姿勢を大切にすべきだと思います。保育を創造的に展開するためにも、マニュアルにとらわれることなく、保育者の個性や能力が発揮される姿を期待したいものです。

◆自信がもてない保育者を支えよう

 とはいえ、「発揮すべき個性、誇れるような能力などない……」と考える保育者は意外に多いようです。特にまじめな保育者にそうした傾向が多いように感じます。謙虚さからではなく、本心でそう思っている保育者たちに出会うと、「自分に自信がもてないようでは……」と心配になります。

 しかし「自信」とは「自分を信じる」と書くわけですから、そうした保育者にこそ他者との比較ではなく、自らの姿勢や感性、また好きなことに自信をもってほしいものです。「子どもが好き、子どものために働きたい」といった意思をもつだけでも貴重であると認め、個性や能力を引き出してあげたいものです。

◆好きなことを磨いていく

 教職員の個性や能力を引き出すためには、管理職や先輩保育者が日頃から細やかにアンテナをはり、仕事ぶりのなかでキラッと光る面を見つける努力が必要となるでしょう。遠慮ぎみな教職員がいれば、採用時の履歴書や面接で自己アピールした点に立ち返ってもらうことも一案でしょう。

 「好きこそものの上手なれ」という諺もありますから、興味・関心が高い事柄を磨くことを奨励していけば、本物の自信も得られていくことでしょう。こうした努力を周囲が認めていけば、得意分野をもつことにもつながるはずです。そうすれば、苦手な部分にも自ら挑戦し、自己改善も図られていくと思います。

◆違いを尊重し合う教職員集団に

 オールマイティになんでもこなせる保育者になれれば、それに越したことはありませんが、現実はそうもいきません。だとすれば、同じことを求め合うのではなく、違っていることを尊重し合うことが大切です。

「みんなちがって、みんないい」

 童謡詩人金子みすずの有名な詩の一節ですが、子ども理解だけでなく、教職員間の相互理解にも活用すべきメッセージでしょう。歌うことが好き、体を動かすことが好きなど、多様な個性が発揮される時、教職員集団は豊かなハーモニーを醸し出すはずです。さらに、個性が各自の得意分野となり、経験年数に関係なく、場面ごとに仕事をリードしてくれるようになれば協働的な教職員集団となり、園の保育力もアップしていくはずです。

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プロフィール:白梅学園大学教授。幼稚園教諭・保育士として勤務後、保育研究者の道に。東京学芸大学大学院修了。著書に『食を育む』『若手保育者の育成法 ―組織の活性化は若手の成長がカギ!』(フレーベル館)、『子どもらしさを大切にする保育~子ども理解と指導・援助のポイント』(新読書社)、『保育カリキュラム総論~実践に連動した計画・評価のあり方・進め方』(同文書院)ほか多数。

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