コラム

コンサルタント・桑戸的な視点 第8回

桑戸真二(株式会社フレーベル館保育経営アドバイザー)、柳修二(株式会社福祉総研執行役員)

■ 第20回 「子育て安心プラン」 ■

国難突破解散から、衆院選を圧勝した安倍首相は、少子化対応を全面に打ち出しました。教育の無償化やその財源となる消費税の使途見直しの具体策も気になるところですが、2020年度末までに32万人分の保育の受け皿の整備を進めるとした「子育て安心プラン」の2年前倒しからも安倍政権の本気度がうかがわれます。今号では、「子育て安心プラン」を中心に、保育業界や園経営に精通したコンサルタントの柳修二氏にお話を伺いました。

桑戸:

これまでの経緯や背景を踏まえながら、「子育て安心プラン」の概要を教えてください。

柳:

こんにちは、柳修二と申します。6月号以来となります。どうぞよろしくお願いします。

子育て・教育というジャンルのみの話でなく、女性の活躍推進が持続的な日本の経済成長につながる施策として「待機児童解消加速化プラン」(以下、「加速化プラン」)の策定と前倒しでの実施が行われてきました。しかし、2015年4月からの「子ども・子育て支援新制度」の施行に伴い、短時間勤務の方も預けることができる仕組みへと改変を行い、内閣府や地方自治体が同制度の普及活動を行った結果、就業を希望する女性が想定以上に掘り起こされました。

保育の受け皿も40万から50万へと拡充していきましたが、待機児童は増加しました。これを受けて、さらに受け皿を増やす「子育て安心プラン」を今年6月に策定し、2018年から遅くとも2020年度末までに新たに22万人分、2022年度末までには女性の就業率の向上と待機児童ゼロを維持するための10万人と、5か年で合計32万人分の受け皿を確保する方針を示しました。今回、国はさらに2年前倒し、3か年で32万人分の受け皿を整備するとしました。

桑戸:

「子ども・子育て支援新制度」が施行された2015年以降の待機児童の状況は?

柳:

2015年が約2.3万人、2016年は約2.4万人、そして2017年4月時点で約2.6万人と、3年連続で増加しています。地域別では主に人口流入が続く関東近郊や各地域の主要都市部を中心として増減を繰り返しており、年齢別では1、2歳児の待機児童が72%を占めています。

1990年の1.57ショック後の待機児童の解消に向けての政府の施策を振り返ってみると、安倍内閣の「加速化プラン」の力の入れ具合はかなりのもので、国・地方自治体は小規模保育事業や企業主導型保育事業の開始、幼稚園等の認定こども園への移行や、無認可保育所等の認可化支援などの取組みを進め、施設数も定員も増やしてきました。ですが、都市部での土地・物件のミスマッチや全国的な保育士不足なども相まって、女性が就労等を継続し、保育を必要とする保護者が増え続ける中で、「供給」が「需要」に追いつかない「いたちごっこ」の状態となっています。

桑戸:

今回の「子育て安心プラン」の中で、柳氏が注目するポイントは?

柳:

企業主導型保育事業の拡充や幼稚園の2歳児の受け入れ、幼児教育の無償化や0歳児の保育等の在り方について注目しています。「加速化プラン」の中ですでに実施された企業主導型保育事業では、2017年度末までに7万人の受け皿を確保する予定ですが、経済界を含めた各団体・省庁との検討がなされたうえで継続的な財源確保と受け皿の拡充をすることもあると考えます。

2歳児の受け入れに関しては私学助成のままの幼稚園が受け入れられるようになれば、これによって待機児童の多い1、2歳児の内、2歳児の受け皿が拡充する可能性はあります。今後の調査・検討の内容によって変化していきますので、注目しています。さらに、幼児教育の無償化や0~2歳児の保育料負担軽減などによって、保護者の動きにも、自治体にも、そして園経営にも変化が起きるでしょう。また、「子育て安心プラン」の前倒しや消費税増税分の幼児教育無償化、事業主拠出金の負担率の引き上げの協議などを行っており、年内には方向性が示される予定ですので、この中での議論にも注目しています。

桑戸:

ありがとうございます。「子育て安心プラン」から目が離せませんね。選挙後の新聞記事から推測するに、企業主導型保育事業は、従業員の福利厚生としてだけでなく地域貢献事業としても、この先も期待されているようです。また、財務省との協議においては保育所等の利益率を踏まえ、人件費以外の公定価格の見直し等も検討されるようですので、効率的な経費への配分や利益率のバランスなどを考慮した「経営」をしていく必要も考えられます。

来月号では、柳氏が注目するポイントを踏まえ、今後の子どもをめぐる動きを予測し、戦略的な園運営を考えていく予定です。

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桑戸真二・プロフィール:NPO法人福祉総合評価機構専務理事、(株)福祉総研代表取締役。(株)フレーベル館保育経営アドバイザー。幼稚園・保育園から認定こども園への移行に関するコンサルティングなどを多数手がける。関係省庁・団体とのつながりも深い。

柳修二・プロフィール:株式会社福祉総研執行役員。東京都福祉サービス第三者評価者、保育士。

保育ナビ倶楽部 会員限定メールマガジン 2017年11月15日号から)

 

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