執筆/首藤久義
プロフィール:千葉大学名誉教授。『はじめてつかう漢字字典』の編著者。
2. 顔の中の漢字見つけ
(1)顔の中の漢字見つけ
この顔の中に漢字があります。見つかりますか?
「口(くち)」と、
横になった2つの「目(め)」と、
顔の両側に1つずつある「耳(みみ)」と、
そして少し複雑な形だけれど「鼻(はな)」があります。
見つかったかな?
これらの漢字「口・目・耳・鼻」の訓読みは、それぞれ「くち」「め」「みみ」「はな」です。
「口」の音読みは、「人口(じんこう)」の「こう」と「口調(くちょう)」の「く」です。
「目」の音読みは、「注目(ちゅうもく)」や「目的(もくてき)」の「もく」です。
「耳」と「鼻」の音読みは、「耳鼻科(じびか)」の「じ(耳)」と「び(鼻)」です。
(2)どれが「耳」かな?
次の文字は、大昔の人が書いていた文字(古代文字:こだいもじ)です。どれが「耳」でしょう。耳に似ている形を探してみましょう?見つかるかな?
この中で、耳の形に似ているのは……。
見つかりましたね。一番右にありますね。耳の形に似ていますね。
これらの古代文字を、今の漢字に置き換えると、
口(くち) 目(め) 耳(みみ)
になります。
「口」も「目」も「耳」も、古代文字と比べると、直線と角が多くなって、漢字らしい形になっています。
(3)「鼻」の古代文字は「自」だった。
顔の真ん中にある「はな」を表す漢字は、
鼻
です。
その「はな」を表す古代文字は、次のような形でした。
顔の真ん中にある「はな」の形に似ていますね。
これがもとになってできた漢字が、
自
です。
もともとは、この漢字が、顔の真ん中にある「はな」を表していました。
が、この漢字は、その後、「じぶん」を表す文字として使われるようになりました。
どうしてそうなったのでしょうか?
私なりに推測してみました。
人は、自分であることを示すために自分の鼻を指さすことがありますね。そこで大昔の人は、「はな」を表す漢字「自」を借りて、「じぶん」という意味を表すことにしたのだと推測されます。
そうなると、顔の真ん中にある「はな」を表すための漢字を別に作らなければなりません。そうしてできたのが
鼻(はな)
という漢字です
この漢字を部品に分解して、上から順に並べると
自(じぶんの自)
田(たんぼの田)
廾(にじゅうあし)
となります。
縦線1本で「十(じゅう)」ですが、縦線が2本だと「廾(にじゅう)」になります。これが、漢字の下の部分(足の部分)に置かれる場合は「にじゅうあし」と呼ばれる部品になります。【末尾の補注参照】
(4)「口」を含む漢字
次の漢字の中に、「口」の形が含まれています。どこにあるでしょう?
舌 言 味 問 告 呼 吸 可 歌 唱
見つかりましたか?
これらの漢字であらわされる言葉には次のようなものがあります。
舌(した)
言う(いう)
味わう(あじわう)
問う(とう)
告げる(つげる)
呼ぶ(よぶ)
吸う(すう)
呼吸(こきゅう)
歌う(うたう)
唱える(となえる)
歌唱(かしょう)
どれも、口に関係がありますね。
(5)「歌唱(かしょう)」という熟語
「歌唱」という熟語の読み方は「かしょう」です。この場合、「歌」も「唱」も音読みされています。
歌にも唱にも、その音(おん)を示す漢字が含まれています。
それはどれでしょう?
見つかりますか?
可(か) と 昌(しょう)
ですね。
漢字の「可」は、口を開けてのどの奥から「か」という声を出す形からできた漢字だと考えられます。その意味は、「よい」「できる」などです。
漢字の「昌」は、お日さまが2つ重なったような形からできた漢字だと考えられます。その意味は、「あきらか」「さかん」などです。「昌夫(まさお)」「昌子(まさこ)」など、名前によく使われます。
(6)漢字「歌」の成り立ち
漢字の「歌」を3つの部品に分解するとどうなるでしょうか?
可 + 可 + 欠
となりますね。その中の「欠(けつ)」という漢字の古代文字は、次のような形です。
人が口を大きく開けている姿です。
そう考えると、この漢字「歌」から、人が口を大きく開けて歌う姿が見えてきませんか?
(7)「目」を含む言葉
次の言葉の中に、「目」という形が含まれています。どこにあるでしょう?
見る(みる)
貝(かい)
直角(ちょっかく)
相手(あいて)
真ん中(まんなか)
看板(かんばん)
水着(みずぎ)
肉眼(にくがん)
眉(まゆ)
瞳(ひとみ)
睡眠(すいみん)
瞬き(まばたき)
瞬間(しゅんかん)
見つかりましたか?
(8)「耳」を含む言葉
次の言葉の中に、「耳」という形が含まれています。どこにあるでしょう?
聞く(きく)
聴く(きく)
取る(とる)
職業(しょくぎょう)
聖人(せいじん)
見つかりましたか?
(9)「鼻」を含む言葉
次の言葉の中に、漢字の「鼻」が含まれています。どこにあるでしょう?
鼻血(はなぢ)
鼻声(はなごえ)
鼻炎(びえん)
見つかりましたか?
<ここまで読んでくれてありがとうございます。次回も楽しいコラムをお届けします! お楽しみに>
【補注】
「鼻」の旧字体は、
鼾(いびき)
の「へん」(偏=左の部分)と同じ形でした。
よく見ると、一番下の部分の縦の2本線が横画「一」の上に突き抜けていません。
それが、70年ほど前に新字体を作った際に、一番下の部分の2本線が横画「一」の上に突き抜けた形になって、今の形の
鼻(はな)
になったのです。目を近づけたり、拡大して見たりして、違いを確かめてください。
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監修/村石昭三(国立国語研究所 名誉所員)
編著/首藤久義(千葉大学 名誉教授)
古代文字/浅葉克己 イラスト/坂崎千春+井上雪子
ブックデザイン/祖父江慎
規格 : 22×15cm 412ページ
ISBN : 9784577814468
学習指導要領完全準拠
小学校教育漢字1026字