コラム

コンサルタント・桑戸的な視点 第3回

桑戸真二(株式会社フレーベル館保育経営アドバイザー)、柳修二(株式会社福祉総研執行役員)

■ 第15回 企業主導型保育事業 ■

政府は待機児童解消加速化プランに基づく平成29年度末までの保育の受け皿の整備目標を前倒し・上積みし、40万人分から50万人分としましたが、そのうち最大5万人分の受け皿を確保するとした企業主導型保育事業を昨年度よりスタートさせました。この事業も今年で2年目を迎えますが、先日のニュースでは成田空港の認可外保育園(46名定員)が最大106名の利用対象を拡張し、企業主導型保育事業の申請を行うという報道があるなど全国で展開され、注目されています。

今号では企業主導型保育事業をテーマに取り上げ、企業主導型の保育事業の立ち上げや園経営に精通したコンサルタントの柳修二氏にお話を伺いました。

桑戸:

企業主導型保育事業(以下、企業主導型)とは、どのような事業なのでしょうか。

柳:

はじめまして、柳修二と申します。よろしくお願いいたします。

企業主導型は認可並みの運営費・整備費の助成を受けられ、かつ地域住民の子どもの受け入れ(定員の50%以内)が可能となります。事業の特徴としては、延長・夜間保育、短時間・週2回のみの利用が可能となるなど、従業員の就労形態や企業の運営状況などに応じた柔軟なサービスが提供できます。また保育室等は認可外保育所施設の基準をクリアすればよく、認可外保育所のため、県への届出のみで事業が開始できます。

桑戸:

初年度の企業主導型のスタート状況は? また特徴的な動きがあれば教えてください。

柳:

公益財団法人児童育成協会によりますと、昨年度は第1次から第4次募集に対し、1,235施設、定員27,155人の申請があり、3月30日までの助成決定数は、871施設、20,284人と発表されました。

具体的なケースとしては、新たな建物の整備、既存施設改修などで定員の新設・拡充を行うこととなりますが、設置場所については利用する従業員や地域の子どもの利便性を考慮し、住宅地の中や駅近接地などに設置する「住宅地型」「駅近接型」、学校等が当該施設に勤務する職員が利用するために設置する「学校内設置型」、百貨店、ショッピングセンター等の大型施設内に設置し、施設に入っている各テナントと共同で利用する「大型施設型」などで区分されます。設置主体別にみると、医療法人や学校法人、社会福祉法人や株式会社など多様であり、資生堂・ニチイ学館・イオンモール・ビックカメラなどよく知られた株式会社も参入しており、運営にあたっては自らが実施したり、保育事業者に委託したりしています。

個人的な興味で助成決定一覧を分析してみましたが、全体では定員の平均は23.3名、地域住民の子どもの受け入れ枠(以下、地域枠)を設定している園は652施設(76.4%)あります。平成28年に厚生労働省が示した待機児童数の上位の5つの都府県(東京・沖縄・千葉・大阪・兵庫)においては、企業主導型の活用によって256施設、5,675名の定員が設けられ、195施設(76.1%)で地域枠を設定していることから、同都府県14,946名の待機児童解消の一助となっています。一方で待機児童「ゼロ」と示された9県(青森・山形・新潟・石川・富山・福井・長野・山梨・鳥取)では、企業主導型が51施設、1,435名の定員が設けられ、38施設(74.5%)で地域枠が設定されています。このうち「住宅地型」が16施設478定員あり、立地面に鑑みると既存の保育所・幼稚園等との競合相手にもなりえるとも考えられます。

その他、特徴的な動きとしては平成28年の待機児童数202名で全国20位だった愛知県では企業主導型の創設数が4位(63施設、1,268名定員)となっており、県内では名古屋市が21施設、定員353名(うち地域枠は15施設、定員287名)ということが見えてくることから、潜在的な待機児童の掘り起こしをとらえ、設置者側が積極的に動いたことが一つの要因とも考えられます。

桑戸:

今年度や今後の見通しについてはどのように考えておられますか。

柳:

企業主導型は平成28年4月から制度説明が始まったにも関わらず、1,235施設、定員27,155人の申請があったことに鑑みると、これから審査中の案件の決定と同時に昨年同等数が見込まれ、今年度中に予算に到達する可能性もあります。待機児童の解消は2020年末頃までに延長されたことで状況は変わるかもしれませんが、検討中の場合は早めに対応された方がいいかもしれません。また別の視点においては設置がゴールでなく、運営開始後には質の向上が求められますので、法令を順守した適切な運営と児童の安全確保なども大切です。

桑戸:

先日、政府が発表した新プラン「子育て安心プラン」では2018年から2020年末までで22万人分、2022年度末までにさらに10万人分、計32万人分の保育の受け皿が整備される予定です。1・2歳児の待機児童の解消に向けては企業主導型や小規模保育事業等の拡充も含め、6月頃に示される政府の方針が今後の教育・保育施設の運営・経営等に影響を与えるでしょう。

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桑戸真二・プロフィール:一般財団法人総合福祉研究会理事、NPO法人福祉総合評価機構専務理事、(株)福祉総研代表取締役。(株)フレーベル館保育経営アドバイザー。幼稚園・保育園から認定こども園への移行に関するコンサルティングなどを多数手がける。関係省庁・団体とのつながりも深い。

柳修二・プロフィール:株式会社福祉総研執行役員。東京都福祉サービス第三者評価者、保育士。

 

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