コラム

コンサルタント・桑戸的な視点 第7回 

桑戸真二(株式会社フレーベル館 保育経営アドバイザー)

■ 第19回 企業主導型保育事業の動向 ■

最近テレビや新聞、雑誌、インターネット上を賑わせている『企業主導型保育事業』とは、どんなものでしょうか? セブンイレブン・トヨタ・大手銀行・大手生保などの企業に加え、地場の企業や学校法人、社会福祉法人などなど経営主体は多岐にわたりますが、待機児童のいない地域でも企業主導型保育所は開設されています。そこで今号では、既存の幼稚園・保育園・認定こども園(就学前施設)にじわりと影響を及ぼす企業主導型保育事業の動向について取り上げます。

企業主導型保育所は、企業から広がる「子育て支援の輪」をコンセプトに(子育て中の従業員もうれしい、会社もうれしい)会社がつくる保育園です。認可保育園を運営している社会福祉法人や幼稚園を運営している学校法人が自園の保育士や幼稚園教諭のために開業した事例も出てきています。

従業員の多様な働き方に対応できることが大きな特徴です。 例えば、週2日だけの利用や、工場や病院・介護施設などの交代勤務に対応した保育サービスなど、働き方に応じ自由に保育時間が設定(夜間・早朝・休日・短時間etc.)できます。

企業主導型保育事業は単独の企業でも、地域の複数企業が共同でも設置することができます。 設立後、自社で保育を行うこともできますが、保育を他社(幼稚園を運営する学校法人や保育園を運営する社会福祉法人、株式会社などで保育事業を行っている事業者etc.)に委託することもできます。 整備費も運営費も認可施設並(公定価格並)の助成がありながら、自治体の認可取得を必要としない無認可保育園という形態です。認可施設としての制約が無いため、企業と企業で働く人のニーズを細かく汲み取りやすいといわれています。

また、自社企業や共同設置企業の従業員の子どものほか、設置企業は地域貢献の一環として地域枠を設定(利用定員の50%以内)することで地域の子どもを預かることができ、保育事業を通じて地域社会とのかかわりをより深いものにできると考えられています。

それからさらに、助成単価については、働く職員の資格取得率(100%・75%・50%)に応じて金額が変動するといった細かい助成規定があり、資格者を採用することの難しい昨今、資格を有している職員の不足などによる経営リスクも軽減できることも大きな特徴になっています。 ただ、この制度(公費の沢山入った無認可保育園)の中で、 子どもたちの最善の利益が守られるのかは、設置者や運営事業者の力量によるものであることを十分注意しておきたいと思います。

利用者(保護者)が好んで入社した会社が就労支援と同時に子育てを一緒に考え、その環境を整えてくれることをマスコミは好意的に報道しています。自社企業の従業員(保護者)の働き方や子育ての思いを反映しやすいのが企業主導型保育事業の特徴の一つです。

内閣府のホームページ上に下記の記載があります。

『企業主導型の事業所内保育事業を主軸として、多様な就労形態に対応する保育サービスの拡大を行い、仕事と子育てとの両立に資することを目的としています。』

(平成28年度・平成29年度2か年で10万人分を予定。32年度までに待機児童の解消を目指す「子育て安心プラン」においては2万人分の上積みをし、合計12万人程度を予定)

同事業には運営費・施設整備費の助成金が出ますが、これは企業が負担する「子ども・子育て拠出金」で賄われており、状況によってはさらに企業主導型保育事業による保育の受け皿の拡充が行われる可能性もあるでしょう。

この事業を行う上で、助成金の取り扱いについて運営上注意すべき点もあります。通常の認可保育所や小規模保育事業の「公定価格」(補助金)と同じではありません。実際の助成金の請求には実績報告を要し、助成・収入に対して支出がなければ精算(返金)の必要があります。利益追求でなく、従業員の福利厚生や地域貢献事業の一環と考えることが大切です。

沢山の種別(幼稚園・保育園・認定こども園・自治体独自の認証保育所・企業主導型保育所etc.)の乳幼児の教育・保育施設が整備され、百花繚乱(りょうらん)の様相を呈していますが、どのような形態の施設が我が国に必要なのか、また利用者に好まれるのかはもう少し先に結論が出ることでしょう。

今回のメルマガはいかがだったでしょうか。また、次回もよりよい情報をお届けしますので、どうぞお楽しみに!

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桑戸真二・プロフィール:一般財団法人総合福祉研究会理事、NPO法人福祉総合評価機構専務理事、(株)福祉総研代表取締役。(株)フレーベル館保育経営アドバイザー。幼稚園・保育園から認定こども園への移行に関するコンサルティングなどを多数手がける。関係省庁・団体とのつながりも深い。

保育ナビ倶楽部 会員限定メールマガジン 2017年10月15日号から)

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