『保育ナビ』2023年10月号特集「子どもとつくる 対話でつくる 保育のすすめ 子どもたちとつくるミーティングを考える」で、上町しぜんの国保育園(東京都世田谷区)の子どもたちのミーティングを取材しました。そのミーティングの振り返りとして、ミーティングを担当した石上雄一朗先生と青山誠先生、ゲストの柴田愛子先生が座談会を行いました。10月号の座談会の続きの記事となりますので、ぜひ、本誌と併せてお読みください。(2023年2月取材)
〈参加者〉
柴田愛子先生(りんごの木子どもクラブ代表)
青山誠先生(上町しぜんの国保育園園長)
石上雄一朗先生(上町しぜんの国保育園保育者)
*肩書は取材当時のものです。
①ミーティングが楽しくなるための心得
柴田先生(以下、柴田):今日のミーティングの中で、小さい声でしゃべる子がいたじゃない? それをおとなが聞き取って、大きな声でみんなに伝えたよね。あの時、子どもたちがざわざわしていたから、例えば「今は、この子を見てね。何か言おうとしているよ」と言って、もしそれでも聞き取れなかったら、「私が大きな声で言ってもいい?」って聞いたらどうかしら。今、この人の思いに、みんなで耳を貸そうよって。どこを見て、何を聞くのかが、もう少し明確になるといいかなと思ったわ。
石上先生(以下、石上):確かにそうですね。
青山先生(以下、青山):空気の張り方もあると思います。りんごの木で僕が保育をしていた時は、しっかり聞かないといけないっていうふうに、空気がピンと張っていたかな。
柴田:それは大事な時なの。大事な時だから生かしたい。だから、その気構えはあるの。
青山:迫力がありますよね。ちゃんと集中したらやわらかいんだけど、真剣な感じがします。
柴田 :発言量は問わないのだけど、あの子、こんなことが言えるんだとか、一人ひとりが発見し合える場だと思う。ミーティングは楽しくなくちゃだめで、楽しいからミーティングが好きになるのよね。
青山 :今、それに取り組み中です。うちの園では、問答になってしまうことがあって、最初は僕もそうだったから、問答でもいいんだけれど、頭と心はちゃんと生き生き動いていてほしい。やっぱり楽しいから会話が弾むのであって。小難しくやっていると、子どもが全然乗ってこないから。
石上 :そうなんですよ、楽しい! そうなんです。
青山 :石上くんや板敷くんが城址公園に行こうと言う時は、子どもたちみんなノリノリで付いてくるじゃない? それと同じだよね。ミーティングで特別にっていうよりも、まずは聞いてほしいんだっていうところを。その信頼のベースはあると思うな。
石上 :自分の中に、遊びを広げる時のアイデアを出していく時のチャンネルと、今日のようなちょっと聞いてみたいという時のチャンネルがあって。1つめのチャンネルは自分でもわくわくしているけれど、2つめのチャンネルになった途端、自分の「おとなスイッチ」が入るんです。脳が固まってしまうし、多分表情とかも違うのかと思う。今、そこが難しくて、すごく困っています。
柴田 :まだ自分をさらけ出せないのね。深まっていくことになると、気恥ずかしい気もするし、これでいいのだろうかという迷いがまだあるんじゃない?
石上 :確かに、そうかもしれない。だから、言葉がポンと出てこないってことですか? 遊びの話は、答えも何もなくて、ギャハハって笑っているだけ。
柴田 :そうそう、楽しんでいるんだよね。
石上 :2つめのほうは、もしかしてこの子、嫌なのかなとか、答えを探しちゃうのかもしれないですね。
柴田 :考えすぎちゃうのね。
石上 :おとならしくなってしまう。
柴田 :私は、失敗して気付くほうが、学んで気付くより、はるかに大きいと思うのよ。言い方だってそうで、あんまりな言い方になってしまったのなら謝ればいいのよ。関係性ができているんだから、ほとんどのことは許されるのよね。
石上 :確かにそうですね。
柴田 :自分を広げられれば自分も気持ちいいし、そういう関係がまたできてくると思うけどね。
青山 :今日、愛子さんがけんかの話をおとなに振った時も、そういうことですよね。その人としてどう感じてきたかや、好きなのか嫌いなのか、自分としてどう感じるかというところをみんなで出し合う機会をもっとつくりたいと思っています。
②子どもにわかるような問いの抽象化
柴田 :今日、おとなから子どもに問いかけることが多かったの。だから、おとなに問いかけたの。
青山 :なるほど、あなたはどうなの?って。
柴田 :なんてことはなくて、あなたたちも子どもと同じでしょ、っていう。
石上 :本当にそうですよね。以前、青山さんと話した時に、生きざまみたいな話じゃないですかと言ったことがあったんです。自分が本当にそう生きていないと、あのミーティングの場に立った時に、その部分が出てきちゃう。大きな課題です。
青山 :あとは石上くんも板敷くんもとっても真面目だから、失敗したら学ぼうとするタイプ。録音もしてちゃんと書き起こしていて、偉いなと思う。だけど、子どもってもっと自由で、「そんなのあり?」ってところから広がったりもするからね。
柴田 :石橋を叩きすぎると渡れなくなるからね。先日、ある幼稚園から子ども同士のトラブルをどうやってミーティングにしたらいいのかと、問い合わせがきたの。私が言ったのは、まず本人の気持ちを吐き出させること。それから、それを共通の普遍的なテーマにすること。そうすると客観性が出てくるから、そこで保育者の体験を話すとか、劇にするとか、より具体的な客観性にすることによって意見が生まれてくるのよね。考えることで自分なりの意見が出てくるのよ。
青山 :普遍的な問いにするところでみんなが困ってしまう。
柴田 :そうなの、そこで終わってしまうの。
青山 :意見を出すことにおとなも慣れていないのかも。僕が以前失敗したように、この子が困っているのだから、早く解決しようとか、こういう行為はいけないから、注意してクラスに伝えておこうというほうにいってしまうのかな。
石上 :子どものことがわかっていないと、子どもがわかる抽象化にはならないんだと思います。
柴田 :最終的には、その子のことはその子が考えることだから。考えられる状況をつくっておけばいいのよね。
石上 :その子の出来事だけじゃなくて、その周りも含めた出来事でフィールドをつくってあげるということですか。
柴田 :そう、広げて、本人が、そういうものなんだと見られるように。
石上 :その子が客観的に自分を見られて、その結果がミーティングを通じて返ってくるということですね。
柴田 :だからミーティングの意味があって、自分を自覚(認識)することによって、今後は自分らしい考えや動きをつくっていける。
③場の空気はどうつくる?
石上 :僕は愛子さんのミーティングを見たことはあったんですが、今日、ミーティングで質問をしてくれた時の最初のテンション、声の出し方で、子どもたちが一瞬で、この人は大丈夫な人だとなったんですよ。それがすごいな、おもしろいなと。子どもってすごいなと思ったし、愛子さんもすごいと思ったんですが、それってどうやっているのですか?
柴田 :自然体でいられるからかもしれない。今日、1人の子に聞かれたんだけれど、どうしておばあちゃんになっちゃったのって言われて。そうなんだよ、私だって別になりたかなかったね、私だったあなたぐらいちっちゃい時はあったのよ、なんか知らないうちにおばあちゃんになっちゃったわよ、なんてね。こちらが素でいけば、子どもも素できてくれるってことかもしれないわね。
青山 :だけどりんごの木の保育者って、素とは言っても、子どもの前に立った時はやっぱり違いますよね。朝は不機嫌なのかと思うくらい無口なのに、子どもが来た瞬間に、ガラッと変わるの。そこからは心地よい声で、子どもを迎い入れる自分に変わるから。
石上 :ミーティングとか子どもの話をする場面での青山さんの空気と、愛子さんが一声目をぽんと出した時の姿は同じだったんですよ。
青山 :それはりんごの木の空気なんだよね。子どもにおはようって言う一声目がどれだけ大事かっていうのは、すごく言われたし、その実例もたくさん見せてもらった。子どもに開いている自分でいるということだと思う。
柴田 :でも、タイプによるね。青山くんだったら、早くに来てそういう自分をつくるんだよね。
青山 :そう、切り替えがすごく難しいから。朝、遅れてきてもそのままつくれる人もいるし、それぞれ。
石上 :なんだろうな、難しいな。
青山 :でも石上くんの周りには子どもがいっぱい寄って来る。楽しそうだから。それでいいんじゃない?
石上 :そうなんですよね。でももっとだなって思うんです。
青山 :真面目だからさ。
柴田 :いいんじゃない、子どもにとって人畜無害な人という存在感があれば、ね。
青山 ・ 石上 :貴重な機会をありがとうございました。
柴田 :楽しかったです。
(構成:編集部)
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