コラム

保育新時代を読む!      トピック&解説  第6回

監修/桑戸真二  解説/小出正治

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・第6回

保護者も職員も「園長に見ていてほしい」と願っている
―― 保護者や職員との信頼関係を深めるうえでの一考察

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■ 「園長との距離」が、保護者の園に対する満足度に与える影響

第5回に引き続き、第三者評価実施時の保護者アンケートの傾向からですが、自由意見として時折、園長に対する声が寄せられることがあります。例えば、園長がその年度から交代した園では、「前の園長先生は~だったが、今の園長先生は~」、といった言い方で、現任者と前任者を比較する意見が寄せられることがあります。それを含め、保護者が園長について肯定的に言及する際によく見られるのが、保護者に積極的に話しかけてくれる・挨拶をしてくれる、子どもや保護者の顔と名前を覚えて声をかけてくれる、といった「園長の子どもや保護者に対する積極的な関心」への称賛です。

逆に、園長の姿をあまり見かけない、事務所にこもってばかりで声などかけてもらったことがない、といった、「自分たち保護者・子どもにかかわってくれようとしない」姿勢に対する批判の声が寄せられることもあります。もちろん園長それぞれの組織運営や保護者対応のスタイルがあり、なかにはできるだけ現場の職員たちが主体となって保護者との信頼関係を築き上げてほしい、との考えから、そうした批判も承知のうえで、あえて保護者とは距離を置いている、という園長先生もおられます。また保護者の言う「顔と名前を覚えて」も、園の規模によっては難しい場合もあるでしょう。

ただ、あくまで筆者の主観ですが、前述の「保護者や子どもに近い」園長への肯定的な評価が様々に寄せられる園は、園に対する総合的な満足度の値も概ね高いように感じます。担任を含む現場の職員だけでなく、園長も自分やわが子のことを知り、気にかけていてくれると実感できることは、保護者にとっては小さくない安心材料なのでしょう。

■ 子どもたちの自己肯定感を育むには、それを担う職員も認められ、自信をもてる環境を

職員にとってもそれは同じであるようで、園長が職員や現場の状況にどれだけ関心をもっているか――実際はどうあれ、職員にどう映っているか、は、称賛・批判ともよく意見が上がります。相談がしやすい、丁寧にフォローしてくれる、といった感謝の言葉が寄せられることもあれば、意見を言っても否定される、現場に寄り添ってくれようとしない、といった厳しい声が上がるケースもあり、第三者評価機関にとっては、典型的な感情労働の職場である保育所という環境に留意し、特定のネガティブな意見にとらわれることなく評価に臨む姿勢が試されるところでもあります。

評価機関はごく限られた情報と時間によってしか園を知ることができませんので、保護者対応もそうですが、園長が日頃どのように職員に接しているか、実態の正確な把握は困難です。その中で、園長の職員へのかかわり方を推し量る有効なヒントとなるのが、会議録に記録される種々の発言のほか、保育日誌その他の帳票類への添削です。職員の記入内容に対して積極的に書き込みを行い、指導をする園長先生もおられますが、例えば、
「そこ書きます?」
「ちゃんと意味わかってますか?」
等々、「ダメ出し」の視点で添削をする傾向の強い園長先生には、前述のような批判の声が見られることがままあります。一方、園長への感謝や称賛・信頼の言葉が様々に上がり、組織の雰囲気の良さが職員の声を読むだけでもよく伝わってきたある園でも、園長が日誌に書き込みをしていましたが、その言葉は、
「よく気づきましたね」
「とてもいい視点だと思います。その調子!」
など、すべてが肯定・受容の表現でした。
お尋ねするとそれは意識的に行っていることであり、では指導・矯正はどのように伝えるのか、とうかがったところ、書き込みではなく顔を見て、対話で伝える、とのことでした。文字では感情が伝わらず、批判の表現はなおさら冷たく感じさせてしまう、読む側の気持ちを考え、ネガティブなことほど表情と声を通して直接伝えるようにしている、と。
その園長先生は、子どもたちの自己肯定感を育むためには、それを担う職員こそがまず認められ、それぞれに自信をもてる環境であることが、園にとっては大切なことなのだ、として、

「職員たちが“園長が見てくれている”と感じるか、“園長に見られてる”と感じるか」

とおっしゃっていました。
至言だと思ったものです。

保護者も職員も、「園長に見ていてほしい」と、きっと願っているのです。とは言え、園のあるじとして常に席を温めていることのできる園長先生ばかりではなく、多忙でほとんど園にいることのできない園長先生もおられるでしょう。それぞれの事情に応じた方法で「いつも見守っていますよ」というメッセージを保護者や現場に伝え、安心感と信頼関係の獲得につなげる工夫を考えてみてはいかがでしょうか。

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監修:桑戸真二・プロフィール:(株)福祉総研代表取締役。(株)フレーベル館保育経営アドバイザー。幼稚園・保育園から認定こども園への移行に関するコンサルティングなどを多数手がける。関係省庁・団体とのつながりも深い。

解説:小出正治・プロフィール:NPO福祉総合評価機構にて、保育・教育施設の第三者評価や事業者ネットワーク「保育所サポートデスク」の運営に従事。自治体の研修講師受託、書籍の共著・編集協力なども手がけている。

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