師岡章(白梅学園大学子ども学部教授)
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第 2回 コーチング理論の応用
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園のパフォーマンスを向上させるためには、教職員一人ひとりの力量アップがかかせません。そこで、今回は、様々な分野でスタッフ、またメンバーの力量アップの方法として注目されている「コーチング理論」を紹介します。
◆スポーツの世界からヒントを得たコーチング理論
スポーツの世界では、試合中、選手一人ひとりが自分で状況判断ができるチームが「勝つ」、また「結果を残す」と言われています。実際に試合をするのは監督・コーチではなく、選手自身ですから当然のことですよね。
こうした「勝てるチーム」では、トレーニングも選手が自主的に行う傾向が強いようです。「コーチング理論」はこうした選手の自主性を促す育成法を他分野にも応用していくなかで生み出されたものです。
◆コーチングとは
約80名のプロフェッショナルコーチが所属する株式会社コーチ・エイでは、「コーチングとは対話を重ねることを通して、クライアントが目標達成に必要なスキルや知識、考え方を備え、行動することを支援するプロセス」と位置づけています。
このように、コーチングとは、コーチ役の者がコーチを依頼した者との対話を大切にしながらサポートしていきます。支援する側とされる側との関係性、目標達成を願う本人の能力開発などに効果的な育成法として、ビジネスや心理・臨床、介護など、幅広い分野で活用されています。
◆答えではなく、選択肢を示す
コーチングでは、本人が問題に気付き、その解決策を見出す姿勢を大切にします。そのため、まずコーチはスタッフやメンバー自身が達成したいと思う目標をはっきりさせます。そのうえで、目標達成に向けた効果的な選択肢を複数示していきます。
保育の世界を例にすれば、ある子どもへの対応がうまくいかない時、まず、保育者本人が子どもとどのような関係になることを望んでいるのかを確かめるわけです。次に、希望する関係になっていない理由を見つけるための視点をいくつか示します。そのうえで、改善に向けた対応方法をいくつか提案し、試みることを促すわけです。
こうした支援を丁寧にくり返せば、保育者本人も次第に目標とすべき方向性がはっきりし、その達成に向け、何を努力・工夫していけばよいのかに気づいていけることでしょう。
コーチングは、悩みを抱える者に単に寄り添うこととは異なります。対話を通して問題の所在を把握し、当事者意識を高めながら、本人が問題を解決していけるための方策を具体的、かつ多様に示していきましょう。
◆コーチ役に求められる姿勢・能力
コーチ役となる保育者には、対象となる保育者が「育つべきは自分自身である」と自覚していく中で、丁寧に対話を重ねていける姿勢が求められます。その意味では、粘り強さが必要となるでしょう。
また、相手に具体的な選択肢を示せるためには、自らの積み重ねてきた保育実践、つまり、子どもとの関わり方や環境構成の方法を客観的に振り返り、そのポイントを具体的に説明できる力も必要です。
さらに、本人が目の前の課題を解決しながら、子どもを見る目や保育技術など、保育者としての専門的力量を向上させていくことにつながる支援も心がけねばなりません。
スポーツやビジネスの世界で注目されているプロフェッショナルコーチにまではならなくとも、後輩保育者の育成を「指導」ではなく、「支援」として展開していけるためには、コーチ役の保育者にもそれなりの研修が求められます。
「良きチームには良きコーチあり」
先輩保育者と後輩保育者との間に良きパートナーシップを築くためにも、園長などの管理職は、コーチ役となれる保育者を育てる研修も設定していきましょう。
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プロフィール:白梅学園大学教授。幼稚園教諭・保育士として勤務後、保育研究者の道に。東京学芸大学大学院修了。著書に『食を育む』(フレーベル館)、『子どもらしさを大切にする保育~子ども理解と指導・援助のポイント』(新読書社)、『保育カリキュラム総論~実践に連動した計画・評価のあり方・進め方』(同文書院)ほか多数。
(保育ナビ倶楽部 会員限定メールマガジン 2018年6月1日号から)