コラム

保育新時代を読む!      トピック&解説  第4回

監修/桑戸真二  解説/小出正治

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■ 第4回 

中・長期計画を作成し、「評価対策」で終わらせることなく、園の成長と改善に役立てるためには

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◆ 「中・長期計画」が実際に機能している園に共通して見られる2つのポイント

今年度も後半に入り、第三者評価機関にとってはこれから年度末までが繁忙期です。

第三者評価の訪問先で、各園の経営層の方々とよく話題になるのが「中・長期計画」です。目指すもの(理念・ビジョン等)の実現に向けた課題・目標や取り組みを、3~5年を期間の目安として定めるもの、とされており、保育の環境をより豊かにしたい、業務を効率化して残業を減らしたい、マニュアルを整備したい、職員の保育や子どもの発達への理解を深めたい、地域の未就園家庭への支援をさらに充実させたい、といった現場の実務に関するもののほか、園によっては設備や園舎の改修・改築、園児の確保や事業の拡大・縮小など、経営側の検討課題も内容に挙がることとなります。

都内では第三者評価の普及もあり、中・長期の計画を作成している園もよく見られるようになっていますが、それが計画として現に実行されているケースは多くはなく、評価受審の対策として作られているだけというケースも見られます。その中で、中・長期計画が実際に機能している園に共通しているのは「計画が年度の計画とも連動し、『3年先・5年先に向けて、今年はこれをする』が明確になっている」「計画が現場の職員とも共有され、その推進にも職員が参画している」ということです。

◆ 年度の事業計画を中・長期計画と連動させ、「○年後のために今年やるべきこと」を明確に

年度の事業計画は多くの園で作成されていますが、そのほとんどは職員体制や年齢ごとの定員構成、保育・行事や各種訓練などの年間予定といった、概ね毎年変わらない内容の、事業計画というよりは事業概要といった体裁のものです。それはそれで園の年間の経営の全体像を示すものとして重要ですが、改善と成長が経営の前提であるとすれば、「昨年度よりもさらによい園になるために、今年は何がうちの園にとって重要課題か」も、計画中に明示することが望ましいはずです。

第三者評価項目では国・東京都とも「中・長期計画」と、「“それを踏まえた”年度の計画」をともに定めることとされていますが、年間指導計画と月案の関係と同じように、中・長期計画に示される課題・目標や取り組みが年度単位の計画に落とし込まれ、「今年やるべきこと」が明確にされていることが、中・長期計画を園の課題解決や目標達成に役立つものとするための要件の1つと言えます。

また先ほど「年間指導計画と月案の関係と同じ」と述べましたが、各月の月案の結果をもとに年カリを期ごとに評価反省し、必要に応じて修正した次期の内容を月案に下ろすのと同様に、年度ごとの計画の成果や反省を踏まえて中・長期計画を見直し、それを翌年度の計画に反映させる、というサイクルも、中・長期計画が機能している園では定着しています。

◆ 各計画を職員にも発信し、園経営者の所信表明と直近の課題を現場と共有しよう

さらに、船長が行き先を示し、号令をかけても、乗組員たちが動かなければ船は進まないのと同じように、中・長期計画に記した当面の方向性や取り組みにも、その実現や実行には現場の協力が不可欠です。計画を職員に示すとともに、取り組むべきことを計画の内容や組織の状態に応じて分担して進めてゆくことが必要となるのです。前述の保育環境や業務負担軽減など、日々実際に仕事に携わっている職員であればこそ見える課題・抱える悩みがあり、その解決策を考える段階、つまり計画策定のプロセスから職員が加わっている園もあります。そうすることで、職員各人にも自身の仕事や目の前の子どもだけでなく、園全体の課題にも関心をもち、より能動的にそれにかかわろうとする意識が育ちます。

中・長期計画は「理念やビジョン等に近づくために、3年先・5年先にはこうなっていたい、そのためにはこれとこれに取り組もう」という、園経営者の所信表明のようなものです。園長の頭の中にある、あるいは日頃経営層間・職員間で話し合っている「こうなったらいいね」「これをやらなくちゃね」を、書式や文面にこだわらず、まずは書き出してみること、そしてそのために考えてみることが重要であり、それを職員に発信することがさらに重要なのではないかと思います。形はA4・1枚の箇条書きでも、それを園長が言葉で具体的に説明することで職員に伝わり、現場が動き計画が実行される、ということも可能でしょうし、逆に、整えられた表や書式に詳細な中・長期計画を定めていても、それが職員と共有されなければ計画が「あるだけ」の状態となってしまいますし、そうした園も実際にあります。

最も大切なのは、園経営者が「どうなりたいか、何をしたいのか」を明確にもち、職員に対して発信し続け、現場を鼓舞し続けることではないかと、多くの園をお訪ねする中でよく思うのです。

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監修:桑戸真二・プロフィール:(株)福祉総研代表取締役。(株)フレーベル館保育経営アドバイザー。幼稚園・保育園から認定こども園への移行に関するコンサルティングなどを多数手がける。関係省庁・団体とのつながりも深い。

解説:小出正治・プロフィール:NPO福祉総合評価機構にて、保育・教育施設の第三者評価や事業者ネットワーク「保育所サポートデスク」の運営に従事。自治体の研修講師受託、書籍の共著・編集協力なども手がけている。

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