監修/桑戸真二  解説/小出正治

園を取り巻く状況が大きく変化するなか、園のマネジメント層には、より一層、園経営・運営面での上手なかじ取りが求められます。2019年度から引き続き、持続可能な園になるために欠かせないいくつかのポイントを、保育界に精通したNPO福祉総合評価機構 小出正治先生に解説いただきます。   

   
《特別編》 

災害・事故等に備え、「事が起こった時にどうすべきか」を「起きる前に」組織として考えてみる   ~BCP(事業継続計画)の策定について

 

「最善を願い、最悪に備える」ために

本稿は、新型コロナウイルス感染拡大防止のための緊急事態宣言が国から発令され、東京都がそれを受けて独自に休業要請を行う対象の業種を発表した4月10日前後に作成しています。昨年末から年明け頃にかけて「新型肺炎が流行」「中国、武漢市」といった言葉が断片的に私たちの目や耳に入るようになり、1月も半ばを過ぎて中国国内での感染者急増と都市の封鎖、人の流動制限といった危機的状況を伝えるニュースが頻繁に聞かれるようになってもなお、筆者を含む多くの日本人にとっては、コロナ禍はまだ「画面の向こう側で起きていること」に過ぎなかったように思います。

 
その頃の私たちが今のこの状況を、漠然と怖れはしても身に迫る深刻な危機としては実感しえなかったように、これから先のこと、例えば、本稿が配信される頃のことすら、執筆時点では予断を許さない状況です。1日も早い事態の収束と、日本中の全ての園に以前のありふれた毎日が戻ってくることを、心から願わずにいられません。NHKで放映されていたコロナウイルス関連の特集番組で、国の対策チームの押谷仁さん(東北大学大学院教授)が、最前線で対策にあたるなかでくり返し口にする言葉として、
「Hope for the best and prepare for the worst.(最善を願いつつ、最悪に備える)」
とおっしゃっていました。常に最悪の事態を思い描いておけ、でもうつむくな、前を向くんだ、という、私たち一人ひとりへのメッセージとして、強く心に残っています。

  

■ 今後、一層の周知徹底が求められる「BCP(事業継続計画)」

東京都の第三者評価項目では、一昨年度(2018(平成30)年度)から国に先駆けて「BCP(Business Continuity Plan;事業継続計画)」の策定が求められています。JIS Q 22301(日本工業規格・事業継続マネジメントシステム)ではBCPの定義を「事業の中断・阻害に対応し、事業を復旧し、再開し、あらかじめ定められたレベルに回復するように組織を導く文書化した手順」とし、東京都の評価項目では「組織が自然災害、大火災、深刻な事故など、事業を停止させるほど緊急事態に遭遇した場合に」、「損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画のこと」とされています。

 
3月4日に開かれる予定だった(新型コロナウイルスの影響等を考慮し、資料の公表をもって代替)厚生労働省の社会・援護局関係主管課長会議においても、昨今の自然災害頻発を受け、策定が望ましいとされていますが、2013(平成25)年の調査では策定率は4.5%にとどまっているそうです。都内で筆者の法人が受託した第三者評価でも、正確な集計はしていませんが、策定している園は対象の半数以下、策定だけでなく訓練等での現場への周知や毎年度の見直しなど、BCPの実効性確保にも意識的に取り組んでいる園はさらにそれより少ない印象です。

 

■「事が起こった時にどうすべきか」から「起きる前に」に意識を変える

災害対策について言えば、どの園でも行っているであろう毎月の避難訓練や園舎・設備等の安全点検、各種備蓄品の整備などの平時の取り組みに加え、発災時の避難誘導や人命救助、関係者の安否確認などの初動対応は、多くの園で左記の平時の取り組みとともに「防災マニュアル」「危機管理マニュアル」などの名前の手順書・手引書類にまとめられていると思います。BCPはこれに加え(またはこれ以外の)、「災害等によって人と設備がダメージを受けた環境下で、どのように園の業務を再開・継続し、発災前の状態に復旧させてゆくか」を文書化したもの、と考えられます。ウェブ上ではいくつかの自治体・法人が、BCPのひな型またはその作成の参考となる防災のマニュアルを公表しています(下記)が、それらを参照すると、

・災害時に参集可能な職員や連絡手段
・災害の種類に応じた自施設や周辺地域の被害、起こりうる業務中断リスクの想定
・発災後に行うべき業務やその体制、役割分担
・人や設備等の活用が限定的にならざるを得ないなかで、優先して行うべき業務とその実施体制
・いわゆるライフラインや事業実施に必要な物資の確保
・行政・地域や医療機関・関係業者等との連携
・帰宅困難者等への支援体制(地域の福祉避難所機能を担う方針の場合)
・発災後から復旧までのタイムライン(必要な工程と期間のイメージ)

などが記載されています。
実際には被害の規模や範囲は災害が起きてみなければわかりませんので、計画として具体的で精緻なものを作成するのは難しく、ひな型を一部自園の実情に合わせて加除修正する程度にとどまらざるを得ないでしょう。それでも、策定に取り組む、つまり「事が起こった時にどうすべきか」を「起きる前に」組織として考えてみることには、「起きてからあたふたしたり、皆の心が疲弊しきっているなかで一から対策を考える苦労をせずに済む」という大きな利点があります。

 
上記の厚労省の会議資料によると、現在国がBCP策定状況等の実態調査などを行っており、その成果として今後作成様式の提供も行う予定とのことです。しかし今回のコロナ禍はそれを待たずして、BCPの必要性と、園の事業継続に深刻な影響を及ぼすリスクは災害だけではないということを、図らずも私たちに気づかせてくれました。感染症や食中毒など災害以外の原因による業務実施の制限への対応も含め、上記のBCPの構成要素のうち検討可能なものについて、話し合われてみてはどうかと思います。

 

厚生労働省「社会・援護局関係主管課長会議資料(令和2年3月4日(水))」
https://www.mhlw.go.jp/content/12201000/000601347.pdf
(BCPについては7ページに)

静岡県「介護施設における事業継続計画(BCP)作成支援ツール」※
http://www.pref.shizuoka.jp/kousei/ko-240/kaigo/h26/shisetu-bcp.html

茨城県「高齢者福祉施設・事業所における事業継続計画(BCP)策定の手引」※
https://www.pref.ibaraki.jp/hokenfukushi/chofuku/jigyo/bcp.html

(以上※に掲載のBCPひな型等はほぼ同一内容です)

高知県「高知県社会福祉施設防災対策指針(BCP策定編追加改定)・安全対策シート」
https://www.pref.kochi.lg.jp/soshiki/060201/shisin.html

札幌市「地震・水害BCP作成キット」
https://www.city.sapporo.jp/kaigo/k200jigyo/documents/bcp.pdf

町田市「町田市認可保育所・幼稚園等災害対応ガイドライン」
https://www.city.machida.tokyo.jp/shisei/koho/kisyakaiken/2018/kaiken20180725.files/0725-03.pdf

大阪府「社会福祉施設等におけるBCP(事業継続計画)の策定」
http://www.pref.osaka.lg.jp/fukushisomu/saigaisonae/bcp.html

経済産業省「保育施設のための防災ハンドブック」など(URLは千葉市ホームページ)
https://www.city.chiba.jp/kodomomirai/kodomomirai/kikaku/anzen_handbook.html

(上記以外にも「BCP 福祉施設」等の検索ワードで、各法人・団体が策定している例が参照可能です。)

 

保育ナビ倶楽部 会員限定メールマガジン 2020年5月1日号から)

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監修:桑戸真二・プロフィール:(株)福祉総研代表取締役。(株)フレーベル館保育経営アドバイザー。幼稚園・保育園から認定こども園への移行に関するコンサルティングなどを多数手がける。関係省庁・団体とのつながりも深い。

解説:小出正治・プロフィール:NPO福祉総合評価機構 常務理事・本部事務局長として、保育・教育施設の第三者評価や事業者ネットワーク「保育所サポートデスク」の運営に従事。自治体の研修講師受託、書籍の共著・編集協力なども手がけている。