桑戸真二(株式会社フレーベル館顧問)、小出正治(NPO法人福祉総合評価機構理事・評価推進部長)

■ 第14回 「保育の質」についての一考察 ■

保育・教育施設の不適切な経営がメディアをたびたび賑わせています。日本中の多くの法人・施設が真摯に法令を守り、子どもの育ちの保障を第一として経営やサービス提供に取り組んでいる中で、ごく一部の例外によってそうした貴い営みに疑いの目が向けられてしまうことが残念でなりませんが、「うちの園は大丈夫」で済ませてしまわず、他山の石として襟を正すこともまた大切だと思います。今号では「保育の質」とは何かという視点で、福祉サービス第三者評価機関であるNPO法人福祉総合評価機構の小出正治氏にお話を伺いました。

桑戸:
小出さんは都内を中心に、第三者評価や保護者アンケートを通じて1,200施設以上の保育所や認定こども園にかかわっていますが、評価機関はどのように「保育の質」を見るのでしょうか。

小出:
NPO法人福祉総合評価機構の小出正治と申します。よろしくお願いいたします。第三者評価は「園・法人の目指すもの(理念など)の実現に必要な仕組みが整備され、どう運用されているか」を、国や自治体が決めた基準に沿って確認します。何をもって「保育の質」とするかは園・法人や利用者の価値観によって違うでしょうし、保育・教育やサービスのあり方も様々です。もちろんその優劣を決める基準も第三者評価にはありません。

ただ、「目指すもの(理念など)」とは言い換えれば「それを行うという利用者や社会への約束」でもあります。そういう意味では「理念に掲げる保育・教育が実行されているか」「利用者や社会との約束が守られているか」が「保育の質」を測る物差しと言えるかもしれません。

桑戸:
たびたび報道される、保育所などの不適切な安全管理や食事提供などを考えるとわかりやすいですね。現場のサービスと本来あるべき姿が著しく異なる、すなわち「約束を実行していない」=「保育の質が劣悪」ということ。

小出:
はい。もっとも、そうした法令違反レベルの内容は行政の監督指導の範疇で、第三者評価機関はそこまでの権限も責任も負っていないのですが、保護者の声や施設の自己評価、評価者による実地の調査などから、どんな点に「目指すものの実現に向けた課題」があるかを見定め、お伝えすることが私たちの仕事だと考えています。

桑戸:
毎年多くの園を評価する中で、今日的な傾向として見られる共通の課題のようなものはありますか?

小出:
やはり人材確保にはどの園も苦労されていますし、職員からは業務負担や処遇の面で厳しい意見が見られがちです。保護者アンケートでも、現場の疲弊や職員の入れ替わりへの懸念が寄せられることが以前に比べて増えています。
ただ、就労環境や処遇などへの要望・不満は、多かれ少なかれどの園でも上がるものです。しかしそればかりではなく、保育・教育そのものへの課題意識も現場から様々に示され、さらには「うちの園」の保育・教育や組織の良さ・素晴らしさについても活発に意見が上がる園は、総じて保護者満足度も高いです。

評価機関としてではなく、あくまで私見として申し上げれば、「現場が仕事や保育にどれだけ誇りをもち、夢中になれているか」が重要であるように思います。職員一人ひとりが自園と自園の保育を愛すればこそ、良いところも改善すべきところも見えてくる。自ずとやるべきことも増える一方、それが保育をより良くし、保護者からの信頼もより確かなものとなる、ということでしょう。もちろん労働環境や賃金の改善はさらに進められていくべきですが、先ほど述べた「理念の実現」「約束の実行」が「保育の質」だとするなら、それは職員の仕事へのモチベーション、現場の活力に比例することは確かです。

桑戸:
そういう現場に活力のある園に、何か共通することはありますか?

小出:
これも私見ですが、園長のビジョンが明確で、それが現場に伝わっていることと、同時に職員の自主性・自発性も尊重されていることだと思っています。常にトップダウン、いつも手を出し口を出すという管理型の園長よりも、要所を締めてあとは現場に任せるというタイプの園長のほうが、そうした組織づくりに成功しているように感じます。職員が「園長に見られている」と感じるか、「園長が見てくれている」と感じるか。

桑戸:
子どもと同じく、職員も自己肯定感をもつことができる園、ということですね。突き詰めると「保育の質」とは「組織マネジメントの質」、さらに言えば「園長の質」なのかもしれません。

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桑戸真二・プロフィール:一般財団法人総合福祉研究会理事、NPO法人福祉総合評価機構専務理事、(株)福祉総研代表取締役。(株)フレーベル館顧問。幼稚園・保育園から認定こども園への移行に関するコンサルティングなどを多数手がける。関係省庁・団体とのつながりも深い。

小出正治・プロフィール:NPO法人福祉総合評価機構理事・事務局長・評価推進部長、(一財)総合福祉研究会本部事務局次長、(株)福祉総研代表取締役。第三者評価機関の事業責任者として、都内を中心に毎年100施設前後の評価実施を統括。『自己評価ガイドブック~もっとすてきな保育のために~』(フレーベル館・共著)など。

保育ナビ倶楽部 会員限定メールマガジン 2017年5月15日号より)