コラム

コラム  保育新時代を読む! トピック&解説  第1回

監修/桑戸真二   解説/小出正治  

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■ 第1回  イチローが子どもたちに贈った言葉が発信する、これからの保育・教育のあり方

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◆「自分が熱中できるもの、夢中になれるものを見つけられれば―――」

先日イチロー選手が引退を表明し、東京ドームでの最後の試合の後に会見を行いました。読者の皆様の中にも、席上で語られた氏の言葉に感銘を受けられた方が多いのではと思います。私たちの生き方や仕事への向き合い方においても教訓となる、示唆に富んだ様々な言葉とともに、本稿をご覧になっている園経営者の方々にとっては、子どもたちにメッセージを、との記者の求めに応える形で話されたこの言葉も、興味深いものだったのではないでしょうか。

「自分が熱中できるもの、夢中になれるものを見つけられれば、それに向かってエネルギーを注げるので。そういうものを早く見つけてほしいなと思います」

「それが見つかれば、自分の前に立ちはだかる壁に向かっていける」

好きなこと・夢中になれるものを見つけ、積極的に取り組むことで、困難を克服してゆく―― 新しい『保育所保育指針』などでも謳われている子どもの主体性の育みや「学びに向かう力」などに通じるものだ、と感じた方も少なくないでしょう。

◆「小学校に上がってからが心配」という不安

筆者が都内を中心に多くの保育所などにお邪魔するなかで、近年は保育の方針として「子どもの自主性や主体性を尊重し、一斉の活動よりもそれぞれの子どもの興味や欲求に応じた取組を提供する」「行事もあくまでそうした毎日の生活のつながりの中にある節目の1つと位置づけ、そのためだけに練習に励むものとはしない」といったお話をうかがうことも増えてきました。そうした園で例外なく直面するのが、保護者からの次のような声です。

・自主性を尊重すると言いながら、実質的には子どもが放任・放置されているのではないか

・子どものやりたいことをさせてくれるのはいいが、躾もきちんとしてほしい

・もっと「行事らしい」ことをしてほしい、みんなで一緒に努力し頑張る経験を増やしてほしい

こうした意見はすべて、第三者評価実施の際に行うアンケートでも異口同音に寄せられます。そして、これらとともによく挙げられ、またおそらくは上のそれぞれの言葉の後にも共通して続くと思われるのが、「小学校に上がってからが心配」という不安でしょう。

◆日々の意思疎通や、園からの様々な発信が重要

これらの声は、新設園をはじめとする歴史の浅い園や、新人・若手主体の若い現場が保育を担っている園ほど上がりやすい傾向がありますが、評価受審の回数を重ねるにつれて次第に見られなくなり、「子ども主体」の保育への賛辞や称賛が増えていく園も少なくありません。

おそらくは保護者がわが子の育つ姿から、また園との日々の意思疎通や、園発信の様々な情報から、園の保育への理解と信頼を深め、わが子の就学後やその先への不安が解消されていくため、また年を経るにつれて職員たちが保育者として成長し、園の目指す保育が着実に実践されるようになり、「放任・放置」では、といった疑念を保護者に生じさせる場面がなくなっていくためでしょう。

逆に言えば、画一的なカリキュラムに依存することを良しとせず、子ども一人ひとりの特性や発達、その日その時の興味や意欲に寄り添った保育を志向する園であるほど、子どもに対する大人の主導や規制をあえて抑えることなどへの保護者の不安や理解不足を解消する工夫や、そうした保育を体現できるだけの力をもった現場を育てることが重要となるということでしょう。

とりわけ後者の人材育成は、「子ども主体」の保育を掲げる園にとっては最重要の課題であり、また時に悩みともなっていますが、それについてはまた別の機会にふれたいと思います。

イチロー選手の上の言葉は、子どもたちが夢中になって取り組み、楽しさや喜びを感じられることこそを育ちの糧に、という、新しい保育指針が謳っているこれからの保育・教育のあり方を、図らずも象徴しているものではないかと思います。またイチロー選手という大きな影響力をもった存在によって語られた言葉であればこそ、園の保育・教育とも関連づけ、保護者への発信に活かすのも一案ではないか―― そんなことを感じました。

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監修:桑戸真二・プロフィール:(株)福祉総研代表取締役。(株)フレーベル館保育経営アドバイザー。幼稚園・保育園から認定こども園への移行に関するコンサルティングなどを多数手がける。関係省庁・団体とのつながりも深い。

解説:小出正治・プロフィール:NPO福祉総合評価機構にて、保育・教育施設の第三者評価や事業者ネットワーク「保育所サポートデスク」の運営に従事。自治体の研修講師受託、書籍の共著・編集協力なども手がけている。

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